はじめに
機械装置設計では、ワークを決まった場所へ移動させるために、搬送機構を使うことがあります。
搬送機構とは、ワークや部品を装置内で移動させる仕組みです。
たとえば、
- コンベヤで流す
- ローラーで送る
- シリンダで押す
- スライドユニットで移動させる
- リフタで上下させる
- ターンテーブルで向きを変える
といった方法があります。
搬送機構がうまく設計できていないと、ワークが引っかかったり、姿勢が崩れたり、位置決めが安定しなかったりします。
また、搬送だけを考えて、停止位置や作業者の取り出しやすさを見落とすこともあります。
今回は、機械設計初心者向けに、
「搬送機構の基本」
について解説します。
まずワークの移動目的を決める
搬送機構を考えるときは、最初に
何のためにワークを動かすのか
を整理します。
たとえば、
- 前工程から次工程へ送る
- 作業位置までワークを移動する
- 加工後に排出する
- 検査位置へ送る
- 作業者が取り出しやすい位置へ出す
- 装置内で向きや高さを変える
といった目的があります。
目的が違えば、適した搬送方法も変わります。
ワークを連続して流したいならコンベヤが向いています。
短い距離を押し出すだけなら、シリンダのプッシャで十分な場合があります。
高さを変えたいならリフタが必要になります。
設計時には、
どこからどこへ動かすのか
どのくらいの距離を動かすのか
どの姿勢で動かすのか
停止位置に精度が必要か
を確認します。
搬送機構は、ただ動かすだけではなく、目的に合った方法を選ぶことが大切です。
ワークの姿勢を安定させる
搬送機構では、ワークの姿勢が安定していることが重要です。
移動中にワークが倒れたり、傾いたり、向きが変わったりすると、次の位置決めや作業に影響します。
たとえば、背の高いワークをコンベヤで流す場合、加減速や段差で倒れやすくなることがあります。
丸いワークは転がりやすく、薄いワークは反ったり、隙間に入り込んだりすることがあります。
設計時には、
ワークは搬送中に倒れないか
向きが変わっても問題ないか
ガイドが必要か
搬送面との接触は安定しているか
傷を付けない搬送方法か
を確認します。
ワークの姿勢が安定しない場合は、側面ガイド、受け治具、ポケット、ローラー形状、クランプ搬送などを検討します。
搬送機構では、ワークが移動することだけでなく、正しい姿勢を保てることが重要です。
コンベヤを使う場合
コンベヤは、ワークを連続して搬送したい場合によく使われます。
ベルトコンベヤ、ローラーコンベヤ、チェーンコンベヤ、タイミングベルト搬送など、いろいろな種類があります。
コンベヤを使うメリットは、複数のワークを連続して流しやすいことです。
一方で、停止位置の精度を出すには、ストッパや位置決め機構が必要になることがあります。
コンベヤ上で流れてきたワークを、そのまま加工や組付けに使うのは難しい場合があります。
設計時には、
ワークの底面は搬送に向いているか
搬送中に向きが変わらないか
停止位置をどう決めるか
ストッパに当てたときにワークが跳ねないか
前後工程との高さや速度は合っているか
を確認します。
コンベヤは便利ですが、位置決め機構とセットで考えることが多いです。
シリンダで押す搬送
短い距離を移動させる場合は、エアシリンダでワークを押す方法があります。
プッシャと呼ばれる構造です。
たとえば、
- ワークを横へ押し出す
- ストッパ位置まで送る
- 搬送ラインから横取りする
- 完成品を排出する
といった用途で使われます。
シリンダ搬送は構造が比較的シンプルですが、注意点もあります。
ワークを押す位置が悪いと、ワークが傾いたり、回転したりします。
また、押している途中でガイドがないと、ワークが横に逃げることがあります。
設計時には、
ワークのどこを押すか
押す方向と移動方向は合っているか
ガイドや受けは必要か
押した先でどこに止めるか
戻り動作でワークと干渉しないか
を確認します。
シリンダで押す場合は、押す力だけでなく、ワークの姿勢と停止位置を考えることが大切です。
スライド機構で移動させる場合
ワークを治具ごと移動させたい場合や、位置精度が必要な場合は、スライド機構を使うことがあります。
たとえば、
- ワークをセット位置から作業位置へ移動する
- 治具プレートを前後させる
- 検査位置へ送る
- 作業者の手元から装置内部へ移動する
といった場合です。
スライド機構では、リニアガイド、ガイドシャフト、スライドレールなどを使います。
位置精度が必要な場合は、ガイドの取付精度やストッパ位置も重要になります。
設計時には、
スライド方向に無理な力がかからないか
ガイドの平行度は確保できるか
停止位置はどこで決めるか
ケーブルやエア配管が引っ張られないか
移動中に作業者が手を入れないか
を確認します。
スライド機構は安定した移動がしやすい反面、取付精度やメンテナンス性も考える必要があります。
リフタで上下させる場合
ワークの高さを変える場合は、リフタを使うことがあります。
たとえば、
- コンベヤ高さを合わせる
- ワークを作業位置まで上げる
- 昇降して部品を受け渡す
- 積み重ね品の高さを調整する
といった用途です。
リフタでは、上下方向に荷重がかかるため、落下や傾きに注意が必要です。
エアシリンダだけで上下させる場合でも、ガイドを設けて姿勢を安定させることが多いです。
設計時には、
ワーク重量に対して駆動力は足りるか
ガイドで傾きを防げるか
下降時の安全対策はあるか
停止位置は安定するか
メンテナンス時に落下しないか
を確認します。
上下動作は、落下リスクがあるため、安全面を特に意識する必要があります。
停止位置をどう決めるか
搬送機構では、ワークを動かすことだけでなく、どこで止めるかが重要です。
停止位置が不安定だと、次のクランプ、加工、組付け、検査が安定しません。
停止位置の決め方には、
- ストッパに当てる
- シリンダ端で止める
- サーボやモーターで位置決めする
- センサーで検出する
- 治具の基準面に突き当てる
などがあります。
ここで注意したいのは、駆動機構だけに停止位置を任せないことです。
たとえば、エアシリンダのストローク端だけで位置を決めると、クッションや圧力、負荷によって停止状態が安定しない場合があります。
精度が必要な場合は、外部ストッパや位置決め機構を組み合わせることを検討します。
設計時には、
停止位置に精度が必要か
ストッパは必要か
衝撃を受ける場所は問題ないか
停止後に位置決めし直す必要があるか
を確認します。
搬送と位置決めは、分けて考えると設計しやすくなります。
搬送機構チェックリスト
搬送機構を設計するときは、次の内容を確認するとよいです。
1. 搬送目的
- どこからどこへ移動させるか決まっている
- 搬送距離を確認している
- 搬送中のワーク姿勢を決めている
- 停止位置に必要な精度を確認している
2. ワーク姿勢
- 搬送中にワークが倒れない
- ワークの向きが変わっても問題ないか確認している
- 必要に応じてガイドや受けを設けている
- ワークに傷が付きにくい搬送方法になっている
3. 搬送方式
- コンベヤ、シリンダ、スライド、リフタなどの使い分けを考えている
- シリンダで押す場合、押す位置が適切である
- スライド機構の場合、ガイドの取付精度を考えている
- リフタの場合、落下や傾きへの対策を考えている
4. 停止・位置決め
- ワークをどこで止めるか決めている
- 必要に応じてストッパを設けている
- 停止時の衝撃を考えている
- 搬送後の位置決め方法を考えている
5. 安全・メンテナンス
- 可動部に手が入りにくい
- 配線や配管が搬送動作で引っ張られない
- ガイドやローラーを清掃・交換できる
- 異常停止時にワークを取り出せる
まとめ
搬送機構は、ワークを装置内で移動させるための重要な仕組みです。
ただワークを動かせばよいのではなく、姿勢を保ち、必要な位置で止まり、次の工程へ安定して渡せることが大切です。
搬送機構を考えるときは、
搬送の目的
ワークの姿勢
搬送方式の選定
停止位置
位置決めとの関係
安全性
メンテナンス性
を整理します。
良い搬送機構とは、速く動くだけの機構ではありません。
ワークを安定して移動させ、傷付けず、必要な位置へ確実に渡せる機構
です。
初心者のうちは、搬送機構を考えるときに、まず
どこからどこへ、どの姿勢で、どの位置まで動かすのか
を書き出すことをおすすめします。
次回は、
「昇降機構を設計するときの注意点」
について解説します。
