はじめに

機械部品の図面を描いていると、角が直角になっている形状をよく描きます。

四角いポケット。
角穴。
段付き部品の内側。
部品をはめ込むための凹み。
相手部品を逃がす切欠き。

CAD上では、内側の角を簡単に直角で描くことができます。

しかし、実際の加工では、内側の角を完全な直角にすることは簡単ではありません。

特にフライス加工では、エンドミルという丸い工具で削るため、内側の角には工具径に応じたRが残ります。

このRを考えずに設計すると、

「相手部品が奥まで入らない」
「角が当たって組み付かない」
「追加工が必要になる」
「加工費が高くなる」

といった問題につながります。

今回は、機械設計初心者向けに
「内角Rと逃げ形状を理解する」
というテーマで解説します。


内角Rとは何か

内角Rとは、部品の内側の角に残る丸みのことです。

たとえば、四角いポケットをフライス加工で削る場合を考えます。

CAD上では、四隅を直角に描くことができます。

しかし実際には、エンドミルは丸い工具です。

丸い工具で材料を削るため、ポケットの内側の角には工具半径分の丸みが残ります。

この丸みが内角Rです。

たとえば、直径10mmのエンドミルで加工すれば、理屈としては最小でもR5程度の角が残ります。

もちろん実際の加工では、仕上げ代や工具選定、加工方法によって変わりますが、基本的には
丸い工具で内側の完全な直角は作れない
と考えるとわかりやすいです。


外側の角と内側の角は考え方が違う

初心者が混同しやすいのが、外側の角と内側の角です。

外側の角は、削り落とすことで比較的自由に形を作れます。

たとえば、外形の角を直角に近く仕上げることは可能です。
必要であれば、面取りやR加工を追加することもできます。

一方で、内側の角は工具が入り込んで加工するため、工具の形状に影響されます。

エンドミルが丸い以上、内側の角にはRが残ります。

つまり、

外側の角は削り取れる
内側の角は工具の丸みが残る

という違いがあります。

CADではどちらも同じように直角で描けますが、加工では意味が違います。

この違いを理解しておくと、部品のはめ込み形状や切欠き形状を設計するときにミスを減らせます。


内角Rを考えないと部品が入らない

内角Rでよく起きる問題が、相手部品が入らないことです。

たとえば、四角いブロックを、四角いポケットにはめ込む設計を考えます。

CAD上では、ポケットもブロックも直角で描かれているため、問題なく入るように見えます。

しかし実際にポケットをフライス加工すると、内側の角にRが残ります。

そのため、ブロックの外側の角がポケットの内角Rに当たり、奥まで入らないことがあります。

これは、設計初心者がつまずきやすい典型的なポイントです。

図面上で寸法が合っていても、内角Rを考えていないと組立時に干渉します。

このような場合は、

  • 相手部品側に面取りを入れる
  • 相手部品側にRを付ける
  • ポケット側に逃げ穴を設ける
  • ポケットの角に逃げ形状を追加する
  • そもそもぴったり角で合わせない構造にする

といった対策を考えます。

内角Rは小さな形状に見えますが、部品の組付けに大きく影響します。


逃げ形状とは何か

逃げ形状とは、部品同士が干渉しないように、あえて余裕を作る形状のことです。

内角Rに対する逃げ形状では、角部に相手部品が当たらないようにします。

たとえば、

  • ポケットの角に丸穴を追加する
  • 角部に切欠きを作る
  • 相手部品側の角を面取りする
  • 相手部品側にRを付ける
  • 角部を少し広げる

といった方法があります。

逃げ形状は、見た目だけを見ると「余計な形状」に見えることがあります。

しかし実務では、逃げ形状があることで、加工しやすくなったり、組立しやすくなったりします。

特に、相手部品をはめ込む構造では、逃げ形状が重要です。

設計では、部品をぴったり合わせることだけを考えるのではなく、実際に加工して組み付けるための逃げを考える必要があります。


逃げ穴を使う考え方

内角R対策としてよく使われるのが、逃げ穴です。

逃げ穴とは、角部に丸穴を設けて、相手部品の角が当たらないようにする形状です。

たとえば、四角いポケットの四隅に丸穴を追加すると、内角Rの干渉を避けやすくなります。

逃げ穴を使うと、相手部品の角がポケットのRに当たらず、奥まで入りやすくなります。

ただし、逃げ穴を入れる場合にも注意点があります。

  • 穴径は十分か
  • 相手部品の角が逃げる位置にあるか
  • 強度を落としすぎないか
  • 見た目や清掃性に問題はないか
  • 切粉や異物がたまりやすくならないか
  • 穴加工が追加になってもよいか

逃げ穴は便利な方法ですが、何でも逃げ穴を入れればよいわけではありません。

機能、加工性、組立性、強度、清掃性を見ながら判断することが大切です。


相手部品側に面取りを入れる方法

内角Rへの対策として、相手部品側に面取りを入れる方法もあります。

たとえば、ポケット側にRが残る場合、はめ込むブロック側の角をC面取りにしておけば、内角Rとの干渉を避けやすくなります。

この方法は、逃げ穴を追加したくない場合や、見た目をすっきりさせたい場合に使いやすい考え方です。

ただし、面取り量が不足すると、結局Rに当たってしまうことがあります。

また、相手部品の角が機能上必要な場合は、むやみに面取りできません。

設計時には、

ポケット側に逃げを作るのか
相手部品側に面取りを入れるのか
どちらで逃がす方が作りやすいか

を考える必要があります。

逃げ形状は、片側の部品だけで考えるのではなく、組み合わせる部品全体で考えることが大切です。


Rを許容できる設計にする

内角Rの問題を減らすには、最初からRが残っても問題ない設計にすることも大切です。

たとえば、角で位置決めしない構造にする。
平面やピンで位置決めする。
ポケットの角に相手部品を当てない。
相手部品とのすき間を確保する。
必要以上に角までぴったり入れない。

このように考えることで、内角Rによるトラブルを減らせます。

初心者のうちは、部品同士をCAD上でぴったり合わせたくなることがあります。

しかし実務では、加工誤差、組立誤差、バリ、表面処理、塗装厚み、熱変形などもあります。

そのため、不要なところまでぴったり合わせないことも重要です。

特に角部は、加工しにくく、干渉しやすい場所です。

内角Rが残っても問題ない設計にしておくと、加工も組立も楽になります。


完全な直角が必要な場合もある

基本的には、フライス加工では内角Rが残ると考えます。

しかし、機能上どうしても内側の角を直角に近づけたい場合もあります。

たとえば、

  • 四角い部品を精密にはめ込みたい
  • 角部で位置決めしたい
  • 特殊な形状の相手部品が入る
  • 金型部品のように角形状が必要
  • 逃げ形状を入れられない

といった場合です。

このような場合は、通常のフライス加工だけでなく、別の加工方法を検討することがあります。

たとえば、

  • ワイヤーカット
  • 放電加工
  • ブローチ加工
  • 追加の逃げ加工
  • 部品分割

などです。

ただし、これらの加工はコストや納期に影響する場合があります。

完全な直角が必要な場合は、なぜ必要なのかを明確にすることが大切です。

理由なく直角を求めると、加工費が高くなる原因になります。


角部で位置決めしない方がよい場合がある

機械設計では、位置決めが重要です。

しかし、内側の角で位置決めしようとすると、加工上の問題が出ることがあります。

内角にはRが残るため、相手部品の外角と干渉しやすいからです。

位置決めをしたい場合は、角ではなく、

  • 基準面
  • ピン
  • 段付き面
  • 長穴と丸穴の組み合わせ
  • 加工しやすい当たり面

などを使う方が安定することがあります。

角で位置を決めると、バリやR、面取りの影響を受けやすくなります。

一方、明確な基準面やピンで位置決めすれば、設計意図が伝わりやすくなります。

設計時には、

その角を本当に基準にしてよいのか
もっと確実な位置決め方法はないか

を考えることが大切です。


図面でRや逃げを明確にする

内角Rや逃げ形状は、図面で明確にする必要があります。

CAD上では形状が見えていても、図面で意図が伝わらなければ、加工者が判断に迷います。

たとえば、

  • 内角Rはいくつまで許容するのか
  • 逃げ穴の径はいくつか
  • 逃げ穴の位置はどこか
  • 相手部品側の面取り量はいくつか
  • R残り可なのか
  • 角部に相手部品が当たってはいけないのか

を必要に応じて示します。

特に、相手部品との干渉を避けるための逃げ形状は、設計意図が伝わるように寸法を入れることが大切です。

ただし、すべての内角に細かいR指示を入れる必要はありません。

機能に関係する部分と、一般的な加工上のRで問題ない部分を分けて考えます。

図面では、重要な部分を明確にすることが大切です。


内角Rは工具径とも関係する

内角Rは、加工に使う工具径と関係します。

小さいRを作るには、小さい工具が必要です。

しかし、小さい工具は剛性が低くなりやすく、加工時間も長くなりやすいです。

たとえば、大きなポケットの四隅だけ小さなRを指定すると、荒加工は大きな工具で行い、角部だけ小さな工具で仕上げる必要が出ることがあります。

これにより、工具交換や加工時間が増える可能性があります。

設計時には、

本当に小さいRが必要か
大きめのRでも問題ないか
相手部品側で逃げられないか

を考えることが大切です。

内角Rを小さくすることは、図面上では簡単ですが、加工上は手間が増えることがあります。


角を逃がすと組立しやすくなる

逃げ形状は、加工のためだけではなく、組立性にも効果があります。

部品同士を組み付けるとき、角同士がぴったり合いすぎると、少しのバリや加工誤差で入りにくくなることがあります。

角部に逃げがあると、部品がスムーズに入りやすくなります。

また、面取りやRがあることで、部品を差し込みやすくなり、組立時の引っかかりを減らせます。

特に、

  • はめ込み部品
  • 位置決めブロック
  • スライド部品
  • カバーの差し込み部
  • 治具のワーク受け
  • 交換部品の取付部

では、逃げ形状が重要になることがあります。

設計では、完成状態だけでなく、組み付ける途中の動きも考える必要があります。


逃げを入れすぎると問題になることもある

逃げ形状は便利ですが、入れすぎると問題になることもあります。

たとえば、逃げ穴を大きくしすぎると、部品の強度が下がる場合があります。

逃げを広く取りすぎると、位置決めの面積が減ることもあります。

また、食品機械や粉じんが出る設備では、逃げ穴や溝に異物がたまりやすくなることもあります。

見た目や清掃性が問題になる場合もあります。

逃げ形状を考えるときは、

干渉を避けるために必要な範囲だけ逃がす
強度や機能を落としすぎない
異物がたまりにくいか確認する

ことが大切です。

逃げ形状は、加工しやすさと機能のバランスを見ながら決めます。


初心者が確認したいポイント

内角Rや逃げ形状を考えるときは、次のような内容を確認するとよいです。

  • 内側の角を完全な直角で考えていないか
  • フライス加工で内角Rが残ることを想定しているか
  • 相手部品の角がRに当たらないか
  • 逃げ穴や切欠きが必要か
  • 相手部品側に面取りを入れられないか
  • 角部で位置決めしようとしていないか
  • 小さすぎるRを指定していないか
  • Rを小さくする理由はあるか
  • 逃げ形状で強度を落としすぎていないか
  • 図面で逃げ寸法が明確になっているか
  • 組立時に部品がスムーズに入るか
  • バリや表面処理の厚みも考えているか

内角Rは、図面上では小さな違いに見えます。

しかし、加工や組立では大きな影響を持つことがあります。


まとめ

フライス加工では、エンドミルという丸い工具を使うため、内側の角にはRが残ります。

CAD上で内角を直角に描いていても、実際の加工では完全な直角にならないことが多いです。

この内角Rを考えずに設計すると、

相手部品が入らない
角が干渉する
追加工が必要になる
加工費が上がる
組立時に手戻りが出る

といった問題につながります。

内角Rへの対策としては、

逃げ穴を設ける
相手部品側に面取りを入れる
Rが残っても問題ない構造にする
角部で位置決めしない
必要な場合だけ特殊加工を検討する

といった考え方があります。

良い設計とは、CAD上でぴったり合う設計ではありません。

実際に加工でき、無理なく組み立てられる設計

です。

内角Rと逃げ形状を理解しておくと、加工者にも組立者にも伝わりやすい図面に近づきます。

次回は、
「深い溝・細い溝が加工しにくい理由」
について解説します。