はじめに

機械装置設計では、いきなり詳細な部品を描き始めるのではなく、最初に構想設計を行います。

構想設計とは、装置の目的や動作、レイアウト、必要な機構を大まかに整理する段階です。

たとえば、

  • 何をする装置なのか
  • ワークをどう扱うのか
  • どの順番で動くのか
  • 人がどこで作業するのか
  • どの機構が必要なのか
  • どこに安全対策が必要なのか
  • どのくらいの大きさになるのか

このような内容を整理します。

初心者のうちは、早く形を作りたくなり、CADで部品やフレームを描き始めてしまうことがあります。

しかし、構想が整理できていないまま詳細設計に入ると、後から大きな手戻りになることがあります。

第2回では、機械装置の構想設計で最初に整理するべきことについて解説します。


まず装置の目的を明確にする

構想設計で最初に整理するべきことは、
その装置は何をするためのものか
です。

これは当たり前のようですが、実務では意外とあいまいなまま設計が始まることがあります。

たとえば、

「ワークを搬送する装置」
「部品を押し込む装置」
「作業を楽にする治具」
「安全カバーを追加する改造」

というだけでは、まだ目的としては少し大まかです。

もう少し具体的にすると、

どのワークを
どの位置からどの位置へ
どの姿勢で
どのくらいの速さで
どの精度で
誰が操作して
どの状態になれば完了なのか

を整理する必要があります。

装置の目的が明確になると、必要な機構や構造を考えやすくなります。

逆に目的があいまいなままだと、仕様が変わるたびに構造をやり直すことになります。

構想設計では、最初に
何を達成すればよい装置なのか
をはっきりさせることが大切です。


ワーク情報を整理する

装置設計では、ワーク情報が非常に重要です。

ワークとは、装置で扱う対象物のことです。

ワークの形状や重さ、材質、ばらつきによって、装置の構造は大きく変わります。

たとえば、軽い樹脂部品を扱う装置と、重い金属部品を扱う装置では、搬送方法もクランプ方法も変わります。

傷を付けてはいけない外観部品であれば、受け部の材質や面取りにも注意が必要です。

ワーク情報としては、次のような内容を整理します。

  • 外形寸法
  • 重量
  • 材質
  • 姿勢
  • 基準面
  • 穴や突起の位置
  • 寸法ばらつき
  • 傷を付けてよい面、いけない面
  • 搬送時に持てる部分
  • クランプしてよい部分

特に重要なのは、どこを基準にするかです。

ワークの基準があいまいだと、位置決めやクランプが安定しません。

構想設計では、装置側の構造を考える前に、まずワークをよく見ることが大切です。


作業工程を整理する

装置には、必ず作業の流れがあります。

たとえば、簡単な組立装置でも、

  1. ワークを投入する
  2. ワークを位置決めする
  3. ワークをクランプする
  4. 部品を挿入する
  5. 挿入完了を確認する
  6. クランプを解除する
  7. ワークを取り出す

というような流れがあります。

この流れを整理せずに構想を始めると、必要な機構が抜けたり、動作順序に無理が出たりします。

たとえば、クランプする前にワーク有無を確認する必要がある。
挿入後に圧入完了を検出する必要がある。
取り出し前にシリンダが戻っている必要がある。
作業者が手を入れる前に安全確認が必要になる。

このような内容は、構想段階で整理しておくべきです。

作業工程を整理するときは、
投入から排出までを順番に書き出す
と分かりやすくなります。

装置設計では、形状を考える前に、まず動作の流れを考えます。


人の作業を整理する

装置設計では、人がどこで何をするのかも重要です。

完全自動の装置であっても、段取り、ワーク供給、異常復旧、点検、清掃などで人が関わることがあります。

半自動機や治具では、作業者の動きが装置の使いやすさに直結します。

構想段階では、

作業者はどこに立つのか
ワークをどこから入れるのか
どちらの手で作業するのか
操作ボタンはどこに置くのか
表示やランプは見えるのか
異常時にどこへ手を入れるのか

を考えます。

たとえば、ワーク投入位置が高すぎると作業者に負担がかかります。

操作ボタンが遠いと作業しにくくなります。

カバーを開けないとワーク状態が見えない構造も、現場では使いにくくなります。

装置は、機械だけで成立するものではありません。

作業者が使う前提で、操作性や作業性を考えることが大切です。


必要な機構を洗い出す

装置の目的、ワーク、作業工程が整理できたら、必要な機構を洗い出します。

たとえば、

  • ワークを搬送する機構
  • ワークを位置決めする機構
  • ワークをクランプする機構
  • 部品を押し込む機構
  • 昇降する機構
  • 回転・反転する機構
  • センサーで確認する機構
  • 安全カバーや扉
  • 排出する機構

などです。

ここで大切なのは、最初から細かい部品形状に入らないことです。

まずは、装置に必要な機能を大きく分けます。

たとえば「ワークを動かす」といっても、コンベヤなのか、シリンダで押すのか、ロボットで持つのか、手作業で置くのかで構想は変わります。

また、「クランプする」といっても、上から押さえるのか、横から押さえるのか、エアクランプなのか、手動クランプなのかで必要なスペースや安全対策が変わります。

構想設計では、
どの機能に、どんな機構が必要か
を整理することが大切です。


レイアウトを大まかに考える

必要な機構が見えてきたら、装置全体のレイアウトを考えます。

レイアウトとは、装置内の部品やユニットをどこに配置するかという考え方です。

構想段階では、詳細な寸法まで決める必要はありません。

まずは、

ワークの流れ
作業者の位置
機構の配置
制御盤やエア機器の位置
メンテナンススペース
安全カバーの範囲

を大まかに決めます。

レイアウトでよくある問題は、機構だけを優先して、作業スペースやメンテナンススペースがなくなることです。

たとえば、シリンダやモーターは配置できても、交換できない。
制御盤の扉が開かない。
エア機器の調整つまみに手が届かない。
カバーを外す方向に壁がある。

このような問題は、詳細設計に入ってから気づくと修正が大きくなります。

構想段階で、装置全体の大きさと作業スペースを確認しておくことが重要です。


安全対策を早めに考える

安全対策は、構想設計の早い段階で考えるべき内容です。

後から安全カバーを追加すればよいと考えると、装置が使いにくくなることがあります。

たとえば、

  • 作業者が手を入れる場所に可動部がある
  • ワークが落下する可能性がある
  • 回転部やチェーンに触れる可能性がある
  • 扉を開けたまま動作できてしまう
  • メンテナンス中にシリンダが動く可能性がある

このような危険は、構想段階で見つけておく必要があります。

安全を考えるときは、

人がどこにいるか
どこが動くか
どこに手が入るか
異常時にどう止めるか
メンテナンス時に安全か

を確認します。

安全対策は、装置の形が決まってから考えるものではありません。

装置のレイアウトや動作順序と一緒に考えることが大切です。


メンテナンス性を構想段階で見る

構想設計では、メンテナンス性も早めに確認します。

装置は長く使う中で、必ず点検や調整、部品交換が必要になります。

そのため、構想段階で次のようなことを考えます。

  • シリンダを交換できるか
  • センサーを調整できるか
  • ベルトやチェーンを張れるか
  • カバーを外せるか
  • 給油やグリスアップができるか
  • 清掃しやすいか
  • 消耗部品だけ交換できるか

この確認を後回しにすると、完成後に「動くけれどメンテナンスしにくい装置」になってしまいます。

特に、センサー、シリンダ、ベアリング、ガイド、ローラー、パッド、シール、カバーなどは、交換や調整の可能性があります。

構想段階で、
後から触る部品はどこか
を確認しておくと、使いやすい装置になりやすくなります。


条件の優先順位を決める

装置設計では、すべての条件を完璧に満たせるとは限りません。

設置スペースを小さくしたい。
コストを抑えたい。
サイクルタイムを短くしたい。
安全性を高めたい。
メンテナンスしやすくしたい。
標準品を使いたい。
作業者の負担を減らしたい。

これらは、時にはぶつかることがあります。

たとえば、装置を小さくまとめると、メンテナンススペースが不足することがあります。

高速化すると、機構が複雑になり、コストや安全対策が増えることがあります。

自動化範囲を広げると、装置費用が大きくなることがあります。

構想設計では、
何を優先する装置なのか
を整理することが大切です。

優先順位が決まっていないと、判断に迷ったときに設計がぶれます。


構想設計で作る資料

構想設計では、詳細な部品図までは作らなくても、考えを整理する資料を作ることがあります。

たとえば、

  • 概略レイアウト図
  • ワークの流れ図
  • 動作フロー
  • 機構の簡単なスケッチ
  • 必要機器のリスト
  • 危険箇所のメモ
  • 課題一覧
  • 不明点リスト

このような資料があると、客先や社内、制御担当者、製作担当者と話しやすくなります。

構想段階では、完璧な図面よりも、
考え方が伝わる資料
が重要です。

まだ決まっていない部分は、無理に決めたように見せる必要はありません。

むしろ、不明点や確認事項を明確にしておく方が、後の手戻りを減らしやすくなります。


初心者が確認したいポイント

構想設計を始めるときは、次の内容を確認するとよいです。

  • 装置の目的は明確か
  • ワーク情報は整理できているか
  • ワークの基準面は分かっているか
  • 投入から排出までの流れは整理できているか
  • 作業者はどこで何をするか
  • 必要な機構は洗い出せているか
  • 大まかなレイアウトは成立しているか
  • 安全上の危険箇所は見えているか
  • メンテナンスする部品に触れるか
  • 設置スペースに入るか
  • 優先する条件は決まっているか
  • 不明点や確認事項は整理できているか

構想設計では、細かい寸法よりも、全体の成立性を見ることが重要です。


まとめ

構想設計は、装置設計の最初の大事な段階です。

ここで整理が不十分だと、詳細設計に入ってから大きな手戻りになることがあります。

構想設計では、

装置の目的
ワーク情報
作業工程
人の作業
必要な機構
レイアウト
安全対策
メンテナンス性
条件の優先順位
不明点

を整理します。

良い構想設計とは、最初から細かい部品まで完璧に決めることではありません。

装置として成立する方向を決め、詳細設計で迷わないための土台を作ること
です。

初心者のうちは、CADで形を作る前に、
何をする装置か、ワークをどう扱うか、どの順番で動くか
を紙に書き出すだけでも効果があります。

次回は、
「ワークを基準に装置を考える」
について解説します。