はじめに
今回から、
「実務で学ぶ機械装置設計の基本|構想から詳細設計までの考え方」
というテーマで、機械装置設計の基本を解説していきます。
これまでの連載では、部品設計、加工、図面の描き方など、部品単位の考え方を中心に扱ってきました。
しかし実務の機械設計では、部品を1つずつ設計するだけではなく、複数の部品や機構を組み合わせて、装置として成立させる必要があります。
たとえば、
- ワークを決まった位置に置く
- ワークを搬送する
- エアシリンダで押す
- センサーで確認する
- モーターで回す
- カバーで作業者を守る
- 異常時に安全に止める
- メンテナンスできるようにする
このように、装置設計では多くの要素を同時に考えます。
部品単体では問題なくても、装置として組み上げたときに、動かない、調整しにくい、危ない、メンテナンスできない、ということがあります。
第1回では、まず
装置設計とは何を考える仕事なのか
について解説します。
装置設計は「部品を描く仕事」だけではない
機械設計というと、CADで部品図や組立図を描く仕事をイメージする方も多いと思います。
もちろん、図面を描くことは設計業務の重要な一部です。
しかし、装置設計の本質は、ただ部品を描くことではありません。
装置設計では、まず
目的を達成する仕組みを考えること
が重要です。
たとえば、あるワークを決まった位置まで搬送して、そこで押さえて、穴あけをして、排出する装置があるとします。
この場合、設計者は次のようなことを考える必要があります。
- ワークはどこから入るのか
- どの向きで搬送するのか
- どこを基準に位置決めするのか
- どうやってクランプするのか
- 加工中にワークは動かないか
- 加工後にどうやって排出するのか
- 作業者はどこから操作するのか
- 安全カバーはどこに必要か
- センサーで何を確認するのか
- メンテナンス時にどこを開けるのか
これらを整理したうえで、必要な部品や機構を設計していきます。
つまり装置設計は、
部品を描く前に、装置全体の動きや使われ方を考える仕事
です。
部品設計と装置設計の違い
部品設計では、1つの部品の形状、強度、加工性、組立性などを考えます。
一方、装置設計では、部品同士の関係や、装置全体の動作を考えます。
たとえば、ブラケット1つを設計する場合でも、装置設計では次のような視点が必要です。
- そのブラケットは何を支えるのか
- 周辺部品と干渉しないか
- 工具を入れて取り付けられるか
- センサーや配線の邪魔にならないか
- 装置動作中に振動しないか
- メンテナンス時に外せるか
- 安全カバーを付けた後でも触れるか
部品単体で見れば問題ない形でも、装置の中に入ると問題になることがあります。
たとえば、ボルトは入るが工具が入らない。
部品は動くが配線と干渉する。
カバーは付くが点検できない。
シリンダは動くが、ロッドに横荷重がかかる。
センサーは付くが、調整できない。
こうした問題は、装置全体を見ていないと起こりやすくなります。
装置設計では、部品単体ではなく、
部品同士の関係
を考えることが大切です。
仕様を整理することから始まる
装置設計で最初に行うべきことは、仕様を整理することです。
仕様とは、その装置に求められる条件のことです。
たとえば、
- 何をする装置なのか
- どのワークを扱うのか
- 何個処理するのか
- どれくらいの速さで動くのか
- 人が作業するのか、自動で動くのか
- 設置場所はどこか
- 使うエア圧や電源は何か
- 安全対策は必要か
- 清掃や点検は必要か
といった内容です。
仕様があいまいなまま設計を始めると、後から大きな手戻りになることがあります。
たとえば、ワーク寸法のばらつきを確認していなかったため、治具に入らない。
設置スペースを確認していなかったため、装置が置けない。
作業者の動きを考えていなかったため、操作しにくい。
生産数を確認していなかったため、サイクルタイムが合わない。
このような問題は、設計前の仕様整理で防げることがあります。
装置設計では、いきなりCADを開くのではなく、まず
何を実現する装置なのか
を整理することが大切です。
ワークを中心に考える
機械装置では、ワークを扱うことが多くあります。
ワークとは、装置で搬送したり、加工したり、組み立てたり、検査したりする対象物のことです。
装置設計では、このワークを中心に考えることが非常に重要です。
なぜなら、装置の多くはワークに合わせて作られるからです。
たとえば、
- ワークの大きさ
- ワークの重さ
- ワークの形状
- ワークの向き
- ワークの基準面
- ワークのばらつき
- ワークに傷を付けてよいか
- ワークをどこで支えるか
- ワークをどの方向へ動かすか
これらによって、装置の構造は大きく変わります。
ワークをよく見ずに装置を設計すると、位置決めできない、搬送中に倒れる、クランプで変形する、ワークに傷が付く、といった問題が起こります。
装置設計では、まず
ワークをどう扱うか
を考えることが基本です。
動作の流れを考える
装置設計では、動作の流れを整理することも重要です。
たとえば、単純な装置でも、次のような流れがあります。
- ワークを投入する
- ワークを位置決めする
- ワークをクランプする
- 加工や組立を行う
- 完了を確認する
- クランプを解除する
- ワークを排出する
この流れを考えずに部品を配置すると、動作の順番に無理が出ることがあります。
たとえば、ワークをクランプする前にセンサー確認が必要だった。
シリンダが戻らないと次のワークが入らない。
カバーを閉めないと動作してはいけない。
排出方向に別の部品があって取り出せない。
動作の流れを整理すると、必要な機構やセンサーも見えてきます。
装置設計では、完成状態だけを見るのではなく、
装置がどの順番で動くのか
を考えることが大切です。
安全を最初から考える
装置設計で忘れてはいけないのが安全です。
安全対策は、最後にカバーを付ければよいというものではありません。
構想段階から考えておく必要があります。
たとえば、
- 手を入れる場所にシリンダが動かないか
- 回転部やチェーンに触れないか
- ワークが落下しないか
- 扉を開けた状態で動かないか
- 非常停止後に安全な状態になるか
- メンテナンス中に誤動作しないか
といった内容です。
安全を後回しにすると、後から大きなカバーを追加することになり、作業性やメンテナンス性が悪くなる場合があります。
また、装置レイアウトそのものを変更しなければならないこともあります。
装置設計では、
人がどこに立つのか
どこに手を入れるのか
どこが動くのか
を早い段階で確認することが大切です。
安全は、装置設計の最後に考えるものではなく、最初から考えるものです。
メンテナンス性も設計の一部
装置は、作って終わりではありません。
実際の現場では、長く使う中で、点検、清掃、調整、部品交換、トラブル対応が必要になります。
そのため、装置設計ではメンテナンス性も考える必要があります。
たとえば、
- センサーを交換できるか
- シリンダを外せるか
- ベルトやチェーンを調整できるか
- グリスアップできるか
- カバーを簡単に外せるか
- 汚れがたまりにくいか
- 消耗品だけ交換できるか
- 点検時に工具が入るか
といった内容です。
装置が動いているときは問題なくても、故障時に部品を交換できなければ現場で困ります。
また、清掃や点検がしにくい装置は、長期的に不具合が出やすくなります。
良い装置設計では、動作だけでなく、
使い続けること
まで考えます。
メンテナンス性は、現場で長く使いやすい装置にするための重要な要素です。
コストと納期のバランスを考える
装置設計では、機能だけでなく、コストと納期も考える必要があります。
高精度な部品を多く使えば、良い装置になるとは限りません。
すべてを専用部品にすると、製作費が上がり、納期も長くなります。
一方で、標準品をうまく使えば、設計工数や製作費を抑えられることがあります。
たとえば、
- 市販シリンダを使う
- 標準リニアガイドを使う
- アルミフレームを使う
- 標準ブラケットを活用する
- 汎用センサーを使う
- 板金や製缶で作りやすい構造にする
といった方法です。
ただし、標準品を使えば必ず良いわけでもありません。
装置の条件に合わない標準品を無理に使うと、かえって使いにくくなることがあります。
装置設計では、
必要な機能を満たしながら、作りやすく、手配しやすい構造にすること
が大切です。
装置設計で設計者がまとめるもの
装置設計では、多くの要素をまとめる必要があります。
機械部品だけでなく、エア機器、センサー、モーター、制御、配線、作業者、安全、メンテナンスまで関係します。
そのため、機械設計者は、周辺分野とのつながりも意識する必要があります。
たとえば、
- 制御設計者に動作順序を伝える
- 電気設計者にセンサー位置を伝える
- 加工者に加工意図を伝える
- 組立者に調整方法を伝える
- 現場担当者に作業スペースを確認する
- 購入品の型式や納期を確認する
装置設計は、一人で完結する仕事ではありません。
多くの人に情報が伝わるように、構想図、組立図、部品図、部品表、動作説明、注記などを整理していきます。
装置設計者には、
機械として成立させる力
と同時に、
関係者に伝える力
も求められます。
初心者が意識したいポイント
装置設計を始めるときは、次の内容を確認するとよいです。
- この装置は何をするためのものか
- 扱うワークは何か
- ワークの基準やばらつきは確認したか
- 動作の流れは整理できているか
- 人が作業する場所はどこか
- 危険な動作や挟まれ箇所はないか
- メンテナンス時に部品を外せるか
- センサーやエア機器の配置は考えているか
- 配線や配管の逃げはあるか
- 標準品を使える部分はないか
- コストと納期に無理はないか
- 関係者に伝える情報は整理できているか
装置設計では、部品1つ1つだけでなく、全体の流れを見ることが大切です。
まとめ
装置設計とは、部品を描くだけの仕事ではありません。
装置の目的を整理し、ワークをどう扱い、どのように動かし、どう安全に使い、どうメンテナンスするかを考える仕事です。
そのためには、
仕様
ワーク
動作フロー
レイアウト
安全
メンテナンス性
コスト
納期
関係者への伝達
をバランスよく考える必要があります。
良い装置設計とは、単に動く装置を作ることではありません。
安定して動き、作業者が使いやすく、安全で、メンテナンスしやすく、必要なコストと納期で成立する装置を考えること
です。
初心者のうちは、いきなり細かい部品形状から考えたくなるかもしれません。
しかし、装置設計ではまず、
何をする装置なのか
ワークをどう扱うのか
どの順番で動くのか
を整理することが大切です。
次回は、
「構想設計で最初に整理すること」
について解説します。
