はじめに
機械図面では、表面粗さを指定することがあります。
表面粗さとは、加工面の細かな凹凸の状態を表すものです。
同じ寸法で加工された部品でも、表面が粗いものもあれば、なめらかに仕上がっているものもあります。
初心者のうちは、
「表面はきれいな方がよい」
「粗さを細かく指定しておけば安心」
「重要そうな面には全部きれいな粗さを入れておく」
「加工面はすべて同じ粗さでよい」
と考えてしまうことがあります。
しかし、表面粗さを必要以上に細かく指定すると、加工費が上がりやすくなります。
一方で、必要な面に表面粗さの指示がないと、摺動不良、密着不良、シール不良、摩耗、組立不良などにつながることもあります。
つまり、表面粗さは
細かく指定すればよいものではなく、部品の機能に合わせて指定するもの
です。
今回は、機械設計初心者向けに
「表面粗さはどこまで指定すればよいのか」
について解説します。
表面粗さとは何か
表面粗さとは、加工した面に残る細かな凹凸の程度を示すものです。
機械加工では、工具で材料を削るため、加工面には工具の跡や微小な凹凸が残ります。
見た目ではきれいに見える面でも、拡大して見ると細かな山と谷があります。
この凹凸の状態を数値や記号で指示するのが表面粗さです。
表面粗さは、部品の見た目だけでなく、機能にも影響します。
たとえば、
- 相手部品と密着する面
- 摺動する面
- シールが当たる面
- ベアリングやブッシュが入る面
- ワークに接触する面
- 塗装やメッキを行う面
- 測定基準になる面
では、表面の状態が重要になることがあります。
表面粗さは、単なる外観指示ではなく、部品がどのように使われるかに関係する指示です。
表面粗さを細かくすると加工費が上がる
表面粗さを細かく指定すると、加工費が上がることがあります。
理由は、加工面をよりなめらかに仕上げるために、追加の加工や丁寧な仕上げが必要になるからです。
たとえば、通常のフライス加工でよい面と、細かい粗さが必要な面では、加工条件や仕上げ方法が変わることがあります。
場合によっては、
- 仕上げ加工を追加する
- 切削条件を落として加工する
- 工具を変える
- 研削加工を行う
- ラップ加工や磨きが必要になる
- 加工後の検査が増える
といった対応が必要になることがあります。
図面上では、粗さ記号をひとつ入れるだけです。
しかし加工現場では、その指示を満たすために手間が増える場合があります。
設計者は、表面粗さを指定するときに、
その粗さが本当に必要か
を考えることが大切です。
すべての面をきれいにする必要はない
機械部品のすべての面を、同じようにきれいに仕上げる必要はありません。
たとえば、外観に関係しない逃げ面や、相手部品と接触しない面では、一般的な加工面で十分な場合があります。
一方で、相手部品と接触する面や、機能に関係する面では、表面粗さを考える必要があります。
重要なのは、面ごとの役割を分けて考えることです。
たとえば、
- 取付面
- 位置決め面
- 摺動面
- シール面
- 外観面
- 逃げ面
- 非接触面
では、必要な表面状態が違います。
初心者のうちは、部品全体を一律できれいに指定したくなることがあります。
しかし実務では、
きれいに仕上げる面と、一般仕上げでよい面を分ける
ことが大切です。
取付面は密着を考える
取付面は、相手部品とボルトなどで固定される面です。
この面に大きな凹凸やバリがあると、部品同士が正しく密着しないことがあります。
取付面が密着しないと、
- 部品が傾く
- ボルト締結が安定しない
- 位置がずれる
- ガタが出る
- 振動で緩みやすくなる
- 組立精度が出ない
といった問題につながることがあります。
ただし、取付面だからといって、必ず非常に細かい表面粗さが必要なわけではありません。
一般的なブラケットやプレートの取付面であれば、通常の切削仕上げで十分な場合も多くあります。
設計時には、
その取付面は位置精度に影響するのか
相手部品と全面で密着する必要があるのか
多少の加工目があっても問題ないのか
を考えることが大切です。
摺動面は粗すぎても細かすぎても問題になる
摺動面とは、相手部品とこすれながら動く面です。
たとえば、スライドするガイド面、ブッシュと接触する軸、ワークが滑る受け面などです。
摺動面では、表面粗さが摩擦や摩耗に影響します。
粗すぎる面では、相手部品を傷つけたり、摩耗が早くなったりすることがあります。
一方で、用途によっては、細かすぎる面が必ずしも良いとは限りません。
潤滑油を使う摺動部では、表面状態によって油膜の保持性も関係します。
もちろん、実際には材質、荷重、速度、潤滑条件、相手材などを合わせて考える必要があります。
初心者がまず意識したいのは、
動く面は表面状態が機能に影響しやすい
ということです。
摺動面では、ただ「きれいにする」のではなく、使用条件に合った表面粗さを考える必要があります。
シール面は粗さが重要になる
シールが当たる面では、表面粗さが重要になります。
たとえば、Oリング、オイルシール、パッキン、ガスケットなどが接触する面です。
シール面が粗すぎると、すき間から漏れが発生する可能性があります。
また、シール材を傷つけたり、摩耗を早めたりすることもあります。
一方で、シールの種類や使い方によって必要な表面状態は変わります。
固定用のガスケットなのか。
Oリングが静的に当たるのか。
軸シールのように回転しながら接触するのか。
圧力がかかるのか。
液体なのか、空気なのか。
これらによって考え方が変わります。
シール面では、メーカー資料や標準仕様を確認し、必要な表面粗さを指定することが大切です。
ベアリングやブッシュが入る面は注意する
ベアリングやブッシュが入る穴や軸では、寸法公差だけでなく、表面粗さも重要になることがあります。
たとえば、ベアリングを軸に取り付ける場合、軸径の寸法公差だけでなく、表面の仕上がりも組立性や使用状態に影響します。
穴にブッシュを入れる場合も同じです。
表面が粗すぎると、圧入時に傷が付いたり、はめあい状態が安定しなかったりすることがあります。
また、摺動するブッシュ内径やシャフト外径では、摩耗や動きのなめらかさにも関係します。
このような部分では、
寸法公差
はめあい
表面粗さ
材質
潤滑の有無
を合わせて考える必要があります。
表面粗さだけを単独で決めるのではなく、部品の使われ方全体で判断します。
ワークに触れる面は傷を考える
治具や搬送装置では、部品がワークに直接触れることがあります。
このとき、接触面の表面粗さがワークの傷に関係することがあります。
たとえば、樹脂、ゴム、紙、フィルム、塗装品、メッキ品、外観部品などは傷つきやすい場合があります。
金属部品の加工面が粗いと、ワーク表面にキズや跡が付くことがあります。
また、エッジやバリだけでなく、加工目そのものが問題になることもあります。
ワークに触れる面では、
ワークに傷が付かないか
滑らせる面なのか、固定する面なのか
金属のままでよいか
樹脂やゴムなどの当て材が必要か
面取りやRも必要か
を考えることが大切です。
ワーク接触面では、表面粗さだけでなく、材質や形状も合わせて検討します。
外観面は必要に応じて指定する
機械部品には、外から見える面があります。
カバー、操作部、見える位置にあるブラケット、装置の外装部品などです。
外観面では、見た目を整えるために表面状態を考えることがあります。
ただし、外観面だからといって、必ず切削で細かい粗さを指定する必要があるわけではありません。
塗装、メッキ、アルマイト、ヘアライン、研磨など、仕上げ方法によって考え方が変わります。
たとえば、塗装する部品であれば、塗装下地として必要な表面状態を考えます。
アルマイト処理をする部品では、加工目が外観に出る場合があります。
設計時には、
その面は外観として見えるのか
表面処理を行うのか
加工目が残ってもよいのか
外観品質の基準はあるのか
を確認します。
外観面は、機能面とは別の意味で表面状態が重要になる場合があります。
表面粗さと加工方法は関係する
表面粗さは、加工方法と関係します。
フライス加工、旋盤加工、研削加工、放電加工、ワイヤーカット、板金切断など、それぞれ仕上がりの特徴が違います。
たとえば、フライス加工では工具の送り目が残ることがあります。
旋盤加工では、回転方向に沿った加工目が残ります。
研削加工では、より細かい仕上げが可能な場合があります。
レーザー切断やせん断加工では、切断面特有の状態になります。
設計者は、表面粗さを指定するときに、
その加工方法で無理なく出せる粗さか
を考える必要があります。
加工方法に対して過剰な粗さを指定すると、追加工程が必要になることがあります。
表面粗さは測定できる指示にする
表面粗さを指定する場合は、測定できる指示であることも大切です。
図面に粗さを入れるということは、その粗さを確認する必要があるということです。
測定しにくい場所や、工具が届きにくい奥まった面に細かい粗さを指定すると、加工も検査も難しくなります。
たとえば、
- 深い溝の底面
- 狭いポケットの奥
- 小径穴の内面
- 複雑な曲面
- 裏側の見えにくい面
などです。
もちろん、機能上必要であれば指定する必要があります。
しかし、理由なく測定しにくい面に厳しい粗さを入れると、加工者や検査者に負担をかけます。
設計時には、
その粗さは確認できるのか
測定方法はあるのか
本当にその面に必要なのか
を考えることが大切です。
粗さを細かくしすぎると納期にも影響する
表面粗さを細かく指定すると、加工費だけでなく納期にも影響します。
追加の仕上げ加工が必要になったり、研削工程が必要になったりすると、加工工程が増えます。
工程が増えると、加工機の手配、段取り、検査、外注処理なども増えます。
たとえば、通常の切削加工だけで済む部品に、特定面だけ細かい粗さを指定したために、研磨や研削が追加になることがあります。
これにより、製作リードタイムが長くなることがあります。
短納期の部品では、必要以上の表面粗さ指定が大きな負担になることもあります。
設計時には、
その粗さを指定することで工程が増えないか
納期に影響しないか
一般加工面で問題ない部分ではないか
を確認するとよいです。
指示なき面の扱いを考える
図面では、すべての面に個別の表面粗さを入れる必要はありません。
一般的には、図面全体に対する表面粗さの一般指示を入れ、重要な面だけ個別に指定する方法があります。
たとえば、一般的な加工面は共通の粗さ指示とし、摺動面やシール面だけ個別に粗さを指定する考え方です。
これにより、図面が見やすくなります。
また、どの面が本当に重要なのかも伝わりやすくなります。
すべての面に細かい粗さ記号を入れると、図面が見にくくなり、重要な指示が埋もれてしまうことがあります。
設計時には、
一般指示でよい面
個別に粗さを指定すべき面
粗さよりも面取りやバリ取りが重要な面
を分けて考えることが大切です。
表面処理との関係も確認する
表面粗さは、表面処理とも関係します。
塗装、メッキ、アルマイト、黒染め、硬質クロム、窒化など、表面処理を行う場合は、処理前後の表面状態を考える必要があります。
たとえば、塗装では、表面がなめらかすぎると塗膜の密着に影響することがあります。
メッキでは、下地の加工目が処理後に見えることがあります。
シール面や摺動面に表面処理を行う場合は、処理膜の厚みや仕上がりも考えます。
設計時には、
表面粗さは処理前の指示なのか
処理後の状態が重要なのか
処理膜の厚みで寸法や粗さが変わらないか
相手部品との関係に影響しないか
を確認することが大切です。
表面粗さを指定するときは、加工だけでなく、その後の処理まで見る必要があります。
加工目の方向が重要な場合もある
表面粗さだけでなく、加工目の方向が重要になる場合もあります。
たとえば、摺動面やシール面では、加工目の向きが摩擦や漏れに影響することがあります。
ワークを滑らせる面では、加工目の方向によって引っかかりやすさが変わることもあります。
通常の部品では、加工目の方向まで細かく指定しないことも多いです。
しかし、機能上重要な面では、表面粗さだけでなく加工方向も確認した方がよい場合があります。
設計時には、
相手部品がどの方向に動くのか
シールがどの方向に当たるのか
加工目が機能に影響しないか
を考えることが大切です。
粗さの数値だけでは伝わらない情報もあることを知っておくとよいです。
過剰な粗さ指定を避ける考え方
表面粗さを指定するときは、まず面の役割を考えます。
その面が、何に使われる面なのかを整理します。
たとえば、
- ただの外形面なのか
- 相手部品と密着する面なのか
- 動く面なのか
- シールが当たる面なのか
- ワークが接触する面なのか
- 外観面なのか
- 測定基準面なのか
これを整理すると、必要な表面粗さが見えてきます。
表面粗さを細かく指定する前に、
その面にどんな機能があるのか
を考えることが大切です。
理由が説明できない粗さ指定は、見直す価値があります。
公差と同じように、表面粗さにも理由が必要です。
初心者が確認したいポイント
表面粗さを指定するときは、次のような内容を確認するとよいです。
- その面は何のための面か
- 相手部品と接触する面か
- 取付面として密着が必要か
- 摺動面ではないか
- シールが当たる面ではないか
- ベアリングやブッシュのはめあい部か
- ワークを傷つける可能性はないか
- 外観面として見える面か
- 表面処理を行う面か
- 加工方法に対して無理な粗さではないか
- 測定できる指示になっているか
- 一般指示で済む面ではないか
- 個別指定すべき重要面か
- 加工目の方向は問題ないか
- 粗さを細かくする理由を説明できるか
表面粗さは、なんとなく入れる指示ではありません。
面の役割を考えて、必要な部分にだけ適切に指定することが大切です。
まとめ
表面粗さは、加工面の細かな凹凸を示す重要な指示です。
ただし、表面はきれいであればあるほど良い、という単純なものではありません。
表面粗さを細かく指定すると、
仕上げ加工が増える
加工条件が厳しくなる
検査の手間が増える
加工費が上がる
納期が長くなる
ことがあります。
一方で、摺動面、シール面、はめあい部、取付面、ワーク接触面などでは、表面粗さが機能に影響することがあります。
大切なのは、
必要な面に、必要な粗さを指定すること
です。
良い図面とは、すべての面を細かく仕上げる図面ではありません。
面の役割に合わせて、加工者が迷わず、過剰な加工にならない指示が入った図面
です。
表面粗さを指定するときは、寸法や公差と同じように、
なぜその粗さが必要なのか
を考えるようにしましょう。
次回は、
「板金加工の基本|切る・曲げる・穴をあける」
について解説します。
