はじめに
機械設計では、部品の形や寸法だけでなく、材料を選ぶことも重要です。
同じ形の部品でも、鉄で作るのか、ステンレスで作るのか、アルミで作るのかによって、強度、重さ、錆びやすさ、加工性、コストが変わります。
初心者のうちは、
「とりあえず鉄でよさそう」
「錆びると困るからステンレスにしておこう」
「軽くしたいからアルミにしよう」
「強度が心配だから厚くしておこう」
と考えてしまうことがあります。
もちろん、方向性として間違っていない場合もあります。
しかし実務では、材料を選ぶときに複数の条件を合わせて考える必要があります。
今回は、機械設計初心者がつまずきやすい
「材料を選ぶときに迷いやすいポイント」
について解説します。
材料は強度だけで選ばない
材料を選ぶとき、まず強度を考えることは大切です。
荷重がかかる部品、衝撃を受ける部品、繰り返し力がかかる部品では、十分な強度が必要になります。
しかし、材料選定は強度だけで決まるものではありません。
たとえば、強度だけを考えて厚い鉄板や大きな鋼材を使えば、部品は丈夫になるかもしれません。
しかし、その分だけ重くなります。
重くなれば、組立時に扱いにくくなります。
可動部であれば、駆動力が大きく必要になることもあります。
材料費や加工費も上がりやすくなります。
反対に、軽さだけを考えてアルミを使うと、強度や摩耗、変形が問題になることもあります。
材料を選ぶときは、
強度
重量
加工性
錆びやすさ
コスト
使われる環境
をバランスよく考えることが大切です。
鉄を選ぶ場合の考え方
機械部品では、鉄系材料がよく使われます。
理由は、強度があり、材料の入手性もよく、加工にも対応しやすいからです。
フレーム、ブラケット、ベースプレート、シャフト、取付板など、多くの機械部品で使われます。
ただし、鉄は錆びやすい材料です。
そのため、使用環境によっては塗装、メッキ、黒染めなどの表面処理を考える必要があります。
たとえば、屋内で使う一般的な設備であれば、鉄に塗装やメッキをすることで十分な場合があります。
一方で、水がかかる場所、湿気が多い場所、食品関係、薬品がかかる場所などでは、鉄では不向きな場合もあります。
鉄を選ぶときは、単に「安くて強い」だけでなく、
錆びても問題ない環境か
表面処理で対応できるか
重量が問題にならないか
を確認することが大切です。
ステンレスを選ぶ場合の考え方
ステンレスは、錆びにくい材料としてよく使われます。
水がかかる場所、湿気が多い場所、清掃が必要な設備、食品関係の設備などで採用されることがあります。
ただし、ステンレスは万能ではありません。
鉄に比べて材料費が高くなりやすく、加工費も上がる場合があります。
また、種類によって特性が異なり、磁性の有無、耐食性、加工性なども変わります。
初心者が注意したいのは、
「錆びると困るから全部ステンレス」
と考えてしまうことです。
確かに、錆びにくさが必要な部分にはステンレスが有効です。
しかし、すべての部品をステンレスにすると、コストが大きく上がることがあります。
たとえば、直接水がかかる部品だけステンレスにする。
外観や清掃性が必要な部分だけステンレスにする。
強度部材は鉄に塗装として、カバーだけステンレスにする。
このように、部品ごとに使い分けることも大切です。
アルミを選ぶ場合の考え方
アルミは、軽さが大きな特徴です。
可動部、持ち運ぶ治具、作業者が手で扱う部品、軽量化したいカバーやプレートなどで使われることがあります。
また、加工しやすく、見た目もきれいに仕上がりやすい材料です。
ただし、アルミは鉄に比べて柔らかく、傷や変形、摩耗に注意が必要です。
たとえば、ねじを何度も締め外しする部分では、ねじ山が傷みやすい場合があります。
強い荷重がかかる部分では、変形しやすいことがあります。
摺動する部分では、摩耗やかじりに注意が必要です。
アルミを選ぶときは、
軽くしたい理由があるか
強度や剛性は足りるか
摩耗や傷は問題にならないか
ねじ部の耐久性は大丈夫か
を考える必要があります。
軽いから便利というだけでなく、使用条件に合っているかを確認することが大切です。
樹脂を選ぶ場合の考え方
機械部品では、樹脂材料を使うこともあります。
樹脂は、軽い、錆びない、相手部品を傷つけにくい、滑りやすい、絶縁性があるなどの特徴があります。
ワークの受け部、ガイド、スライド部、カバー、スペーサ、治具部品などに使われることがあります。
ただし、樹脂も種類によって性質が大きく違います。
硬いもの、柔らかいもの、滑りやすいもの、耐熱性があるもの、摩耗に強いものなどがあります。
初心者が注意したいのは、
樹脂なら何でも同じではない
ということです。
たとえば、ワークを傷つけたくないから樹脂を使う場合でも、強度が足りなければ変形します。
滑りやすさを期待して使っても、荷重や温度によって摩耗が早くなることがあります。
高温環境では、変形や劣化が問題になることもあります。
樹脂を使うときは、荷重、温度、摩耗、薬品、寸法変化などを確認する必要があります。
材料の入手性も大切
材料を選ぶときは、性能だけでなく入手性も重要です。
どれだけ性能が良い材料でも、入手に時間がかかる、少量では手配しにくい、加工業者が扱い慣れていない材料では、納期やコストに影響します。
実務では、よく使われる材料や標準的なサイズを選ぶことで、製作がスムーズになることがあります。
たとえば、特殊な板厚や珍しい材質を指定すると、材料手配だけで時間がかかる場合があります。
また、材料の定尺や標準サイズを無視して部品寸法を決めると、歩留まりが悪くなり、材料費が上がることもあります。
初心者のうちは、部品に必要な性能だけを考えがちです。
しかし実務では、
その材料は手に入りやすいか
加工業者が対応しやすいか
標準サイズで作れるか
納期に影響しないか
も考える必要があります。
加工しやすい材料かを考える
材料によって加工のしやすさは変わります。
同じ形状でも、材料が変わると加工時間や工具の摩耗、加工方法が変わることがあります。
たとえば、鉄に比べてステンレスは加工に手間がかかる場合があります。
アルミは加工しやすい一方で、傷が付きやすいことがあります。
樹脂は変形や寸法安定性に注意が必要です。
また、溶接するのか、曲げるのか、削るのか、切断するのかによっても、適した材料は変わります。
板金部品であれば、曲げやすい材料か。
製缶部品であれば、溶接しやすい材料か。
機械加工部品であれば、削りやすい材料か。
摺動部であれば、摩耗やかじりに問題がないか。
材料を選ぶときは、完成した状態だけでなく、
どうやって加工するか
を考えることが大切です。
加工しにくい材料を選ぶと、製作費や納期に影響しやすくなります。
表面処理との組み合わせを考える
材料選定では、表面処理との組み合わせも重要です。
鉄であれば、塗装、メッキ、黒染めなど。
アルミであれば、アルマイトなど。
ステンレスでも、表面仕上げを指定する場合があります。
表面処理は、見た目を良くするだけではありません。
錆びを防ぐ。
摩耗を抑える。
滑りを良くする。
反射を抑える。
汚れを落としやすくする。
識別しやすくする。
このような目的で使われます。
たとえば、屋内で使う鉄部品なら、材料をステンレスに変えなくても、メッキや塗装で十分な場合があります。
逆に、表面処理が必要なことを忘れていると、完成後に錆びや外観不良の問題が出ることがあります。
材料を選ぶときは、
材料そのものの性質
表面処理で補える性質
使用環境で必要な性能
を合わせて考えることが大切です。
コストを意識する
材料選定では、コストも大切な判断材料です。
初心者のうちは、安全側に考えて高価な材料や厚い材料を選びたくなることがあります。
しかし、必要以上に高い材料を使うと、製作費が上がります。
たとえば、
- 鉄で十分な部品をステンレスにする
- 標準材で作れる部品に特殊材を使う
- 必要以上に厚い板を使う
- 軽量化が不要な部分にアルミを使う
- 表面処理で対応できる部分を高価な材料にする
このような選定は、コストアップにつながります。
もちろん、安ければよいというわけではありません。
強度不足や錆び、摩耗、変形が起きれば、かえってトラブルになります。
大切なのは、
必要な性能を満たしながら、過剰になりすぎない材料を選ぶこと
です。
初心者が材料を選ぶときの確認ポイント
材料を選ぶときは、次のような項目を確認すると判断しやすくなります。
- どのくらいの荷重がかかるか
- 衝撃や繰り返し荷重はあるか
- 軽くする必要があるか
- 錆びやすい環境か
- 水、油、薬品、粉じんはかかるか
- 高温や低温で使うか
- ワークを傷つけてはいけないか
- 摺動や摩耗はあるか
- 溶接、曲げ、切削など加工方法は何か
- 表面処理で対応できるか
- 標準材で入手しやすいか
- コストが過剰になっていないか
材料選定は、ひとつの理由だけで決めるのではなく、複数の条件を合わせて判断することが大切です。
まとめ
機械設計では、材料選びも重要な設計作業のひとつです。
材料は、強度だけでなく、重量、錆びやすさ、加工性、入手性、表面処理、コスト、使用環境を考えて選ぶ必要があります。
鉄は強度や入手性に優れますが、錆びへの配慮が必要です。
ステンレスは錆びにくいですが、コストや加工性を考える必要があります。
アルミは軽量化に有効ですが、強度、摩耗、ねじ部の耐久性に注意が必要です。
樹脂は錆びず、相手を傷つけにくい反面、荷重、温度、摩耗、変形を確認する必要があります。
初心者のうちは、
「強そうだから」
「錆びにくそうだから」
「軽そうだから」
という理由だけで材料を決めてしまいがちです。
しかし実務では、部品がどのような環境で使われ、どのように加工され、どのくらいのコストで作る必要があるのかまで考えます。
良い材料選定とは、高価な材料を使うことではありません。
必要な性能を満たしながら、作りやすく、使いやすく、コストも過剰にならない材料を選ぶこと
です。
次回は、
「板厚や部材サイズはどう決めるのか」
について解説します。
