はじめに
機械図面では、寸法、公差、材質、表面粗さ、加工記号などを使って部品の情報を伝えます。
しかし、図面によっては、それだけでは加工者に意図が伝わりにくい場合があります。
たとえば、
- どちら側から加工してほしいのか
- どの面が重要なのか
- バリを特に取ってほしい場所はどこか
- 溶接後に加工してほしいのか
- 黒皮のままでよい面なのか
- 相手部品との干渉を避けたい部分なのか
- 現物合わせが必要なのか
このような内容は、寸法だけでは伝わりにくいことがあります。
そこで使うのが、図面注記です。
図面注記とは、図面上に文章で補足する指示のことです。
初心者のうちは、
「寸法が入っていれば伝わる」
「注記は多い方が親切」
「とりあえず注意事項を書いておけばよい」
「加工者なら分かってくれるはず」
と考えてしまうことがあります。
しかし実務では、注記の書き方が悪いと、かえって誤解を招くことがあります。
今回は、機械設計初心者向けに
「加工者に伝わる図面注記の書き方」
について解説します。
図面注記とは何か
図面注記とは、寸法や記号だけでは伝えきれない内容を、文章で補足する指示です。
たとえば、
指示なき角部はバリ取りのこと
A面は機械加工のこと
溶接後、上面加工のこと
黒皮可
現物合わせにて穴加工のこと
組付け後、干渉なきこと
このようなものが図面注記です。
注記は、加工者や組立者に設計意図を伝えるために使います。
ただし、注記は便利な反面、使い方を間違えると図面が読みにくくなります。
大切なのは、
寸法や記号で表せることは寸法や記号で表し、文章で補足すべきことだけを注記にする
という考え方です。
注記は、図面を補助するものです。
寸法不足をごまかすためのものではありません。
注記は設計意図を伝えるために使う
図面注記の目的は、加工者に設計意図を伝えることです。
単に注意事項を並べることではありません。
たとえば、ある面に「機械加工のこと」と注記する場合、その面には理由があります。
相手部品と密着する。
高さ基準になる。
ガイドが取り付く。
溶接後に平面を出したい。
黒皮のままでは困る。
このような意図があるから注記を入れます。
反対に、特に理由がないのにすべての面に細かく注記を入れると、どこが本当に重要なのか分かりにくくなります。
注記を書くときは、まず自分の中で、
何を伝えたいのか
なぜその指示が必要なのか
加工者が迷うポイントはどこか
を整理することが大切です。
あいまいな表現を避ける
図面注記では、あいまいな表現を避けることが大切です。
たとえば、
きれいに仕上げること
適当に逃がすこと
十分に面取りすること
できるだけ小さくすること
現場合わせでよい感じに調整すること
このような表現は、人によって受け取り方が変わります。
加工者によって、「きれい」「十分」「適当」の判断が違うからです。
注記では、できるだけ具体的に書きます。
たとえば、
ワーク接触部はC1以上面取りのこと
配線通過部はバリなきこと
A面は黒皮不可、機械加工のこと
溶接後、取付面を加工のこと
相手部品と干渉なきようR3以上逃げのこと
のように、何をどうしてほしいのかが分かる表現にします。
注記は、読んだ人が同じ判断をできるように書くことが大切です。
短く、具体的に書く
図面注記は、長い文章にしすぎないことも重要です。
図面は、加工者が作業しながら確認するものです。
長い文章が多いと、読みづらくなり、重要な指示を見落とす原因になります。
注記は、
短く
具体的に
必要な場所に
書くのが基本です。
たとえば、
悪い例としては、
「この面は相手部品と接触する重要な面なので、なるべくきれいに仕上げて、組付け時にすき間が出ないように注意して加工してください」
というような書き方です。
これでは長く、指示もあいまいです。
実務的には、
A面は機械加工のこと
A面バリなきこと
A面は取付基準面
のように整理した方が伝わりやすくなります。
注記は説明文ではなく、製作指示です。
一般注記と個別注記を分ける
図面注記には、大きく分けて一般注記と個別注記があります。
一般注記は、図面全体に共通する指示です。
たとえば、
- 指示なき角部はバリ取りのこと
- 指示なき寸法公差は一般公差による
- 表面処理は黒染めのこと
- 溶接部はスパッタ除去のこと
- 指示なき加工面は黒皮可
などです。
一方、個別注記は、特定の面、穴、形状に対する指示です。
たとえば、
- この面は機械加工のこと
- この穴は現物合わせにて加工
- この角部はR1以上のこと
- この面は塗装不可
- この長穴は組付け後に追加工
といったものです。
一般注記で済む内容を個別に何度も書くと、図面が見にくくなります。
逆に、重要な個別指示を一般注記だけで済ませると、意図が伝わりにくくなります。
注記を書くときは、
図面全体にかかる指示なのか
特定の場所だけの指示なのか
を分けて考えましょう。
バリ取り・面取りの注記
図面注記でよく使うのが、バリ取りや面取りの指示です。
たとえば、
指示なき角部はバリ取りのこと
鋭角部なきこと
指示なき角部は糸面取りのこと
ワーク接触部はC1以上面取りのこと
配線通過穴は両面バリ取りのこと
などです。
バリ取りや面取りは、安全性、組立性、ワーク傷防止に関係します。
ただし、すべてを一般注記だけで済ませると、重要な場所の意図が伝わらない場合があります。
たとえば、配線が通る穴やワークが接触する角では、単なる「バリ取り」では不十分なことがあります。
その場合は、個別に
配線通過部はC1面取りのこと
ワーク接触部はR1以上のこと
のように、必要な処理を明確にします。
バリ取り注記は便利ですが、重要な角部は個別に指示することが大切です。
加工面を示す注記
製缶部品や鋼材部品では、どの面を機械加工するのかを注記で示すことがあります。
たとえば、
A面は機械加工のこと
溶接後、上面加工のこと
取付面は黒皮不可
指示面のみ加工のこと
下面基準に上面加工のこと
このような注記です。
特に製缶部品では、黒皮のままでよい面と、機械加工が必要な面を分けることが重要です。
すべての面を加工するとコストが上がります。
しかし、取付面や基準面が黒皮のままだと、組立精度や密着性に問題が出ることがあります。
図面では、
どの面を加工するのか
どの面は黒皮可なのか
溶接前加工なのか、溶接後加工なのか
が伝わるようにします。
加工面の注記は、製作コストと品質に大きく関係します。
溶接後加工の注記
溶接構造や製缶部品では、溶接後加工の注記が重要です。
溶接すると、熱によってひずみが出ます。
そのため、精度が必要な面や穴は、溶接後に加工する場合があります。
たとえば、
溶接後、A面加工のこと
溶接後、φ10穴加工のこと
溶接後、取付面を機械加工のこと
溶接後、指示穴加工のこと
といった注記です。
この注記がないと、部材単体の段階で加工されてしまい、溶接後に位置がずれる可能性があります。
特に、
- モーター取付面
- ガイドレール取付面
- ベアリング取付面
- 位置決めピン穴
- 装置据付面
- シリンダ取付座
などは注意が必要です。
溶接後加工が必要な場合は、図面上で明確に伝えることが大切です。
表面処理に関する注記
表面処理を行う部品では、表面処理に関する注記も重要です。
たとえば、
表面処理:黒染め
表面処理:無電解ニッケルメッキ
塗装色:指定色
A面塗装不可
タップ穴は処理後さらいのこと
マスキング範囲は図示のこと
などです。
表面処理は、防錆、外観、摩耗、滑り、電気的接触などに関係します。
また、表面処理によって寸法や組立状態に影響が出る場合があります。
たとえば、精密な取付面に塗装が乗ると、相手部品が浮くことがあります。
タップ穴にメッキや塗装が入ると、ボルトが入りにくくなることがあります。
アースを取る面では、塗装があると電気的に導通しない場合があります。
表面処理の注記では、
処理する場所
と
処理してはいけない場所
を分けて考えることが大切です。
現物合わせの注記は慎重に使う
図面注記で「現物合わせ」と書くことがあります。
たとえば、
現物合わせにて穴加工のこと
組付け後、現物合わせにて長穴加工
相手部品に合わせて加工のこと
このような指示です。
現物合わせは、実際の部品や装置に合わせて加工する方法です。
既設設備の改造や、相手部品の寸法が不明確な場合には有効です。
しかし、現物合わせを多用すると、製作側や組立側の負担が増えます。
また、量産部品や再製作部品では、同じ品質で作りにくくなることがあります。
設計者が寸法を決められる部分まで「現物合わせ」にしてしまうと、図面としての情報が不足します。
現物合わせ注記を使う場合は、
なぜ現物合わせが必要なのか
どの部品に合わせるのか
どの段階で加工するのか
再製作時に困らないか
を考えることが大切です。
組立に関する注記
加工図面であっても、組立に関係する注記が必要になることがあります。
たとえば、
組付け後、干渉なきこと
相手部品と接触なきこと
取付後、スムーズに摺動すること
回転部と干渉なきこと
配線を傷つけなきこと
このような注記です。
ただし、これらの注記は便利ですが、あいまいになりやすい面もあります。
たとえば「干渉なきこと」と書くだけでは、どことどこの干渉を避けたいのか分からない場合があります。
できれば、
A部は相手ブラケットと1mm以上すき間確保のこと
配線通過部はバリなきこと
回転部周辺はカバーと接触なきこと
のように、対象を具体的にすると伝わりやすくなります。
組立に関する注記は、加工だけではなく実際の使用状態を考えて書くことが大切です。
注記で寸法不足をごまかさない
図面注記で注意したいのが、寸法不足をごまかさないことです。
たとえば、寸法が不足しているのに、
現物合わせのこと
適宜加工のこと
組付け時調整のこと
と書いて済ませてしまうのは危険です。
加工者や組立者が判断しなければならない範囲が広くなり、品質が安定しません。
注記は、寸法や形状を補足するものです。
寸法として入れるべき情報は、きちんと寸法で入れる必要があります。
たとえば、穴位置、板厚、段差、深さ、幅、R、面取り寸法などは、基本的には寸法で示します。
注記は、
寸法では表しにくい加工順序
表面処理の注意
加工面の考え方
組立時の注意
相手部品との関係
を補足するために使います。
注記に頼りすぎないことが大切です。
注記の対象を明確にする
注記を書くときは、その注記がどこに対するものなのかを明確にします。
たとえば、図面の空いている場所に「バリなきこと」と書いても、それがどの部分を指しているのか分かりにくい場合があります。
一般注記であれば図面全体に適用されます。
個別注記であれば、引出線や記号を使って、対象箇所を明確にします。
たとえば、
この穴は両面バリ取り
A面は塗装不可
B部はR1以上
C面は黒皮可
のように、対象を示します。
対象があいまいな注記は、読み手によって判断が変わります。
注記を書くときは、
どこに対する指示なのか
を明確にすることが重要です。
注記の優先順位を考える
図面には、寸法、公差、記号、表面粗さ、溶接記号、注記など多くの情報が入ります。
その中で、注記が多すぎると、重要な内容が埋もれてしまいます。
そのため、注記には優先順位が必要です。
まず重要なのは、機能や品質に直接影響する注記です。
たとえば、
- 溶接後加工
- 塗装不可面
- ワーク接触部のR
- 配線通過部のバリ取り
- 位置決め穴の加工順序
- シール面の処理
などです。
一方で、一般的な注意事項を細かく書きすぎると、図面が読みにくくなります。
設計時には、
本当に必要な注記か
一般注記で済む内容か
個別に強調すべき内容か
他の寸法や記号で表せないか
を確認するとよいです。
注記は、多ければ親切というものではありません。
加工者が判断しやすい言葉にする
図面注記は、加工者が判断しやすい言葉で書くことが大切です。
設計者だけが分かる言い回しや、社内だけのあいまいな表現は避けた方がよいです。
たとえば、
いい感じに逃がす
いつもの仕様
現場で調整
問題ない程度に加工
きれいに仕上げ
のような表現は、加工者によって解釈が変わります。
できるだけ、
逃げ量
対象面
加工順序
処理範囲
必要な状態
が分かるように書きます。
注記の目的は、設計者の考えを文章にすることではありません。
加工者が迷わず作業できるようにすることです。
よく使う注記例
実務で使いやすい注記例をいくつか挙げます。
指示なき角部はバリ取りのこと
一般的なバリ取り指示として使います。
指示なき角部は糸面取りのこと
軽い面取りを全体に指示したい場合に使います。
A面は機械加工のこと
重要な取付面や基準面を加工面として指定します。
黒皮可
加工しなくてもよい面を明確にしたい場合に使います。
溶接後、A面加工のこと
溶接ひずみ後に精度を出したい場合に使います。
塗装不可範囲は図示のこと
塗装してはいけない面がある場合に使います。
配線通過部はバリなきこと
配線やチューブを傷つけたくない場合に使います。
ワーク接触部はR1以上のこと
ワークの傷防止を意図する場合に使います。
現物合わせにて穴加工のこと
既設設備や相手部品に合わせる必要がある場合に使います。
ただし、これらはあくまで例です。
実際には、会社の図面ルールや加工先の運用に合わせて使うことが大切です。
初心者が確認したいポイント
図面注記を書くときは、次のような内容を確認するとよいです。
- その注記は本当に必要か
- 寸法や記号で表すべき内容ではないか
- あいまいな表現になっていないか
- 短く具体的に書けているか
- 一般注記と個別注記を分けているか
- 注記の対象箇所は明確か
- 加工面と黒皮面の区別は伝わるか
- 溶接後加工の指示は明確か
- 表面処理や塗装不可面は伝わるか
- 現物合わせを安易に使っていないか
- 組立時の注意が具体的に書けているか
- 加工者が判断しやすい言葉になっているか
- 注記が多すぎて図面が読みにくくなっていないか
- 会社や加工先の図面ルールに合っているか
図面注記は、設計者の意図を伝えるための重要な補助情報です。
ただし、書きすぎても、書かなさすぎても問題になります。
まとめ
図面注記は、寸法や記号だけでは伝えきれない加工意図を補足するために使います。
特に、
バリ取り・面取り
加工面の指定
溶接後加工
表面処理
塗装不可面
現物合わせ
組立時の注意
ワークや配線への配慮
などでは、注記が重要になります。
ただし、注記は便利だからといって、何でも書けばよいわけではありません。
大切なのは、
短く、具体的に、対象を明確に書くこと
です。
良い注記とは、設計者の不安を書き並べたものではありません。
加工者が迷わず、必要な品質を安定して作れるようにするための指示
です。
初心者のうちは、注記を書いたあとに一度、
この注記を読んだ加工者は、同じ判断ができるか
と確認してみるとよいです。
図面注記が上手くなると、加工者との認識違いが減り、手戻りの少ない図面に近づきます。
次回は、
「加工しやすい図面を描くために設計者が意識すること」
について解説します。
