はじめに
機械設計では、板金部品、ブラケット、フレーム、架台、ベースプレートなど、さまざまな部品の板厚や部材サイズを決める場面があります。
初心者のうちは、
「強度が心配だから厚くしておこう」
「前に使ったサイズと同じでよさそう」
「なんとなくこのくらいで大丈夫そう」
「薄いと不安だから大きめにしておこう」
と考えてしまうことがあります。
もちろん、経験的に使いやすい板厚や部材サイズはあります。
しかし実務では、板厚や部材サイズを大きくすればよいというものではありません。
厚くすれば強くなる反面、重くなり、加工しにくくなり、コストも上がります。
逆に薄すぎると、たわみ、振動、変形、溶接ひずみなどの問題が出やすくなります。
今回は、機械設計初心者がつまずきやすい
「板厚や部材サイズはどう決めるのか」
について解説します。
板厚や部材サイズは何で決まるのか
板厚や部材サイズは、見た目や感覚だけで決めるものではありません。
基本的には、次のような条件を考えて決めます。
- どのくらいの荷重がかかるか
- どの方向に力がかかるか
- たわみをどこまで許容できるか
- 振動や衝撃があるか
- 溶接するのか、曲げるのか、切削するのか
- 部品を軽くしたいのか
- 加工しやすい形状か
- 組立時に扱いやすい重さか
- コストが過剰になっていないか
- 標準材で入手しやすいか
つまり、板厚や部材サイズは強度だけでなく、加工性、組立性、重量、コストまで含めて決める必要があります。
初心者のうちは、壊れないことだけを考えて大きめにしがちです。
しかし実務では、必要な強さを満たしながら、過剰になりすぎないことも大切です。
厚くすれば安心とは限らない
板厚を厚くすれば、強度や剛性が上がる場合があります。
そのため、設計初心者は「迷ったら厚くする」と考えてしまうことがあります。
しかし、厚くすれば必ず良い設計になるわけではありません。
たとえば、板厚を厚くすると、
- 材料費が上がる
- 部品が重くなる
- 加工時間が長くなる
- 曲げ加工が難しくなる
- 溶接量が増える
- 組立時に扱いにくくなる
- 可動部では駆動力が大きくなる
- 搬送や取り付けが大変になる
といった影響があります。
特に可動部では、部品を重くしすぎると、シリンダやモーターの容量が大きくなることがあります。
その結果、装置全体のコストが上がったり、動作が遅くなったりすることもあります。
また、作業者が手で持つ治具やカバーでは、必要以上に重いだけで使いにくくなります。
設計では、壊れないことも大切ですが、重すぎないこと、作りやすいこと、扱いやすいことも重要です。
薄すぎると何が問題になるのか
反対に、板厚や部材サイズが小さすぎると、強度不足や変形の問題が出ます。
たとえば、
- 荷重でたわむ
- 振動しやすい
- 溶接でひずむ
- ボルト締結部が変形する
- タップのねじ山が不足する
- 持ったときに頼りない
- カバーがベコベコする
- 長期間使用すると変形が残る
といった問題があります。
特に、板金カバーや薄板部品では、平面が広いとたわみやすくなります。
強度的には壊れなくても、触ったときに頼りない、振動で音が出る、見た目が悪いという問題になることもあります。
また、ボルトで締める部分が薄すぎると、締付時に座面が変形したり、ねじ山のかかりが不足したりします。
つまり、薄くして軽くすることも大切ですが、使用時に必要な剛性や締結性を満たしているかを確認する必要があります。
荷重のかかり方を考える
板厚や部材サイズを決めるときは、まず荷重のかかり方を考えます。
同じ重さの部品を支える場合でも、力のかかり方によって必要なサイズは変わります。
たとえば、
- 上から押される
- 横から押される
- 片持ちで支える
- 両端で支える
- 曲げ方向に力がかかる
- 引っ張られる
- ねじられる
- 衝撃を受ける
このように、荷重の向きや支え方によって必要な強さは変わります。
特に注意したいのが片持ち構造です。
片側だけで部品を支える構造は、先端に荷重がかかるとたわみやすくなります。
板厚を厚くするだけでなく、リブを追加する、支点を増やす、荷重の位置を近づけるなどの工夫が必要になる場合があります。
初心者のうちは、荷重の大きさだけに注目しがちです。
しかし実務では、荷重がどこに、どの方向に、どのようにかかるかを見ることが大切です。
たわみを考える
部品は、壊れなければよいというものではありません。
機械設計では、強度だけでなく、たわみも重要です。
強度的には問題なくても、たわみが大きいと、
- 位置決め精度が出ない
- センサー位置がずれる
- ワークの受け位置が安定しない
- スライド部の動きが悪くなる
- カバーが振動する
- 見た目に不安定に見える
といった問題が起こります。
たとえば、ワークを受けるプレートがたわむと、位置決めが安定しません。
センサーを取り付けるブラケットが振動すると、検出不良につながることがあります。
長いフレームがたわむと、搬送ラインの高さが合わなくなることもあります。
このような場合、単に板厚を上げるだけでなく、曲げ形状にする、リブを付ける、支点を追加する、部材の向きを変えるなどの方法もあります。
たわみを減らすには、材料を増やすだけでなく、構造で工夫することが大切です。
曲げやリブで強くする考え方
板厚を厚くする以外にも、部品を強くする方法があります。
代表的なのが、曲げやリブを使う方法です。
薄い板でも、曲げを入れると剛性が上がります。
平板のままだとたわみやすい部品でも、端部を曲げたり、箱形にしたりすると、変形しにくくなります。
たとえば、カバーや受け板では、
- 端部を曲げる
- フランジを付ける
- リブを追加する
- 箱形にする
- 補強板を入れる
といった方法があります。
これは、単に板厚を上げるよりも軽く、加工しやすく、コストを抑えられる場合があります。
また、ブラケットでも、三角リブを入れることで曲げ方向の強さを上げられます。
初心者は「弱そうだから厚くする」と考えがちですが、実務では
厚くするより、形状で強くする
という考え方も大切です。
ボルト締結部の板厚を考える
板厚を決めるときに忘れてはいけないのが、ボルト締結部です。
ボルトで固定する部品では、座面の強さやねじのかかり代を考える必要があります。
たとえば、薄い板にタップを立てる場合、ねじ山のかかりが不足することがあります。
その場合は、ナットを使う、バーリング加工をする、溶接ナットを使う、厚板を追加するなどの対応が必要です。
また、ボルトを締めたときに板が変形しないかも確認します。
薄い板を強く締めると、座面がへこんだり、板が反ったりすることがあります。
長穴や調整穴の近くでは、締結面積が不足することもあります。
ボルト締結部では、
- 締付力を受けられる板厚か
- タップのかかり代は足りるか
- 座面が変形しないか
- ワッシャを使う必要があるか
- ナットや裏板を使うべきか
- 工具が入るか
を確認することが大切です。
加工方法に合った板厚を選ぶ
板厚や部材サイズは、加工方法にも影響します。
板金部品であれば、曲げられる板厚かどうかを考える必要があります。
厚すぎる板は曲げ加工が難しくなり、曲げ半径や金型の制約も出てきます。
溶接構造であれば、薄すぎると溶接ひずみが出やすく、厚すぎると溶接量が増えてコストが上がります。
機械加工部品であれば、材料を削り出す量が多いと加工時間が長くなります。
また、角パイプやチャンネル材、アングル材などを使う場合は、市販されている標準サイズを意識することも大切です。
特殊なサイズにしてしまうと、材料手配や加工に時間がかかることがあります。
設計では、必要な強度だけでなく、
その板厚や部材サイズで作りやすいか
も考える必要があります。
標準材を意識する
実務では、標準材を意識することが大切です。
たとえば、板材、丸棒、角材、アングル、チャンネル、角パイプなどには、よく使われるサイズがあります。
標準的な材料を使えば、入手しやすく、加工業者も対応しやすいです。
反対に、あまり使われない板厚や部材サイズを指定すると、材料の手配に時間がかかったり、コストが上がったりすることがあります。
初心者のうちは、CAD上で自由に寸法を決めてしまいがちです。
しかし実際には、材料には流通しているサイズがあります。
もちろん、必要な性能を満たすために特殊なサイズを使うこともあります。
ただし、特別な理由がない場合は、標準的に入手しやすい材料を選ぶ方が実務では扱いやすくなります。
重量を考える
板厚や部材サイズを大きくすると、部品は重くなります。
重量は、設計上とても重要な要素です。
たとえば、
- 作業者が手で持てるか
- 組立時に治具やクレーンが必要か
- 可動部の駆動力が増えないか
- 搬入や据付に問題がないか
- フレームや架台に負担がかからないか
- メンテナンス時に安全に外せるか
といったことに影響します。
特に、カバーや治具のように人が扱う部品は、重すぎると使いにくくなります。
また、可動部では重量が大きくなると、シリンダ、モーター、ガイド、ブレーキなどの選定にも影響します。
板厚や部材サイズを決めるときは、強度だけでなく重量も確認することが大切です。
コストとのバランスを考える
板厚や部材サイズを大きくすると、材料費だけでなく加工費も上がることがあります。
厚板になれば切断や穴あけに時間がかかります。
大きな部材を使えば、溶接や搬送、組立の手間も増えます。
重い部品は、取り扱いにも手間がかかります。
また、必要以上に大きな部材を使うと、装置全体が大きくなり、他の部品にも影響します。
フレームが大きくなる。
カバーが大きくなる。
駆動部が大きくなる。
設置スペースが増える。
このように、一部の部品サイズを大きくしたことが、装置全体のコストアップにつながることもあります。
設計では、安全性や強度を確保しながら、過剰になりすぎないサイズを選ぶことが大切です。
初心者が確認したいポイント
板厚や部材サイズを決めるときは、次のような点を確認すると判断しやすくなります。
- 荷重はどのくらいか
- 荷重はどの方向にかかるか
- 片持ち構造になっていないか
- たわみが問題にならないか
- 振動や衝撃はあるか
- 曲げやリブで補強できないか
- ボルト締結部の板厚は足りるか
- タップのかかり代は足りるか
- 加工方法に合った板厚か
- 標準材で入手しやすいか
- 重くなりすぎていないか
- 組立やメンテナンスで扱いやすいか
- コストが過剰になっていないか
板厚や部材サイズは、単に大きければ安心というものではありません。
必要な性能を満たしながら、作りやすく、扱いやすく、コストも考えたサイズにすることが大切です。
まとめ
機械設計では、板厚や部材サイズを決める場面が多くあります。
初心者のうちは、強度が心配で厚くしたり、前例に合わせて何となく決めたりしがちです。
しかし実務では、板厚や部材サイズは
荷重
たわみ
振動
加工性
組立性
重量
標準材
コスト
を考えて決める必要があります。
厚くすれば安心とは限りません。
薄くすれば軽くて安いとも限りません。
重要なのは、必要な強さを満たしながら、過剰になりすぎないことです。
また、板厚を上げるだけでなく、曲げ、リブ、支点追加、部材向きの変更など、形状で剛性を上げる考え方も大切です。
良い設計とは、ただ丈夫な設計ではありません。
必要な強度があり、作りやすく、組みやすく、扱いやすく、コストも適正な設計
です。
次回は、
「強度を考える前に荷重のかかり方を確認する」
について解説します。
