はじめに

機械図面では、寸法に公差を入れることがあります。

公差とは、寸法の許されるばらつき範囲のことです。

たとえば、100mmの寸法に対して、±0.1mmまで許容するのか、±0.01mmまで求めるのかでは、加工の難しさが変わります。

初心者のうちは、

「精度は高い方がよい」
「公差を厳しくしておけば安心」
「重要そうだから、とりあえず±0.01にしておく」
「すき間が大きいと不安だから全部きつめにする」

と考えてしまうことがあります。

しかし実務では、公差を厳しくすればするほど、加工費や検査工数が上がりやすくなります。

もちろん、必要な部分には厳しい公差が必要です。

ベアリングが入る穴。
軸とのはめあい部。
位置決めピン穴。
摺動部。
組立精度に影響する基準面。

こうした部分では、機能に合わせた公差を考える必要があります。

一方で、機能に関係しない部分まで厳しく指定すると、不要なコストアップにつながります。

今回は、機械設計初心者向けに
「公差を厳しくすると加工費が上がる理由」
について解説します。


公差とは何か

公差とは、図面寸法に対して許される誤差の範囲です。

機械部品は、図面寸法ぴったりに作られるわけではありません。

加工には必ずわずかなばらつきがあります。

そのばらつきの範囲を、どこまで許すかを示すのが公差です。

たとえば、寸法100mmに対して、

100±0.5
であれば、99.5mmから100.5mmまで許容されます。

100±0.05
であれば、99.95mmから100.05mmまでです。

100±0.01
であれば、99.99mmから100.01mmまでになります。

このように、公差が厳しくなるほど、許される範囲は狭くなります。

許される範囲が狭くなるということは、加工者はより慎重に加工し、測定し、管理しなければならないということです。


公差は精度を上げるためだけのものではない

公差は、単に精度を高くするためのものではありません。

本来、公差は
機械が正しく機能するために必要な寸法範囲を伝えるもの
です。

つまり、設計者は

どこまで寸法がばらついても機能するのか

を考えて公差を決める必要があります。

たとえば、カバーの外形寸法であれば、多少ばらついても機能に影響しない場合があります。

一方で、ベアリングを圧入する穴径は、少しの違いで組立や性能に影響します。

この2つを同じ公差で考える必要はありません。

大切なのは、すべてを高精度にすることではなく、
必要な部分に必要な精度を指定すること
です。

公差は、安心のために厳しくするものではなく、機能を成立させるために指定するものです。


公差が厳しいと加工方法が変わることがある

公差を厳しくすると、加工方法が変わることがあります。

たとえば、通常のフライス加工で十分な寸法であれば、比較的標準的な加工で対応できます。

しかし、より高い精度が必要になると、

  • 仕上げ加工を追加する
  • 加工回数を増やす
  • 研削加工が必要になる
  • リーマ加工が必要になる
  • ボーリング加工が必要になる
  • ワイヤーカットや放電加工を検討する
  • 専用治具が必要になる

といったことがあります。

図面上では、±0.1を±0.01に変えるだけかもしれません。

しかし加工現場では、その小さな変更によって加工方法や工程が変わることがあります。

加工方法が変われば、当然コストや納期にも影響します。

設計者は、公差を入れるときに、
その公差を出すために加工方法が変わらないか
を考えることが大切です。


加工時間が長くなる

公差が厳しい寸法では、加工時間が長くなりやすくなります。

粗く削って終わりではなく、少しずつ寸法を確認しながら仕上げる必要があるからです。

たとえば、寸法に余裕がある部品であれば、通常の加工で問題ない場合があります。

しかし、厳しい公差がある場合は、

  • 一度で削りすぎない
  • 仕上げ代を残す
  • 寸法を測定する
  • 少しずつ追い込む
  • 再度測定する
  • 必要に応じて追加加工する

といった作業になります。

つまり、公差が厳しいほど、加工者は慎重に作業する必要があります。

この慎重な加工が、加工時間の増加につながります。

加工時間が増えれば、加工費も上がります。


測定と検査の手間が増える

公差を厳しくすると、加工だけでなく測定や検査の手間も増えます。

公差が広い寸法であれば、ノギスで確認できる場合があります。

しかし、厳しい公差では、マイクロメータ、シリンダゲージ、ダイヤルゲージ、三次元測定機などが必要になることがあります。

また、測定方法も慎重になります。

部品の温度、測定する場所、測定姿勢、測定者の扱い方によって、結果が変わる場合があるからです。

特に、薄い部品や長い部品では、測定時にたわむこともあります。

つまり、公差を厳しくすると、

加工する手間
だけでなく、
確認する手間
も増えます。

図面に公差を入れるということは、その寸法を加工者や検査者が確認する必要があるということです。


不良品や作り直しのリスクが上がる

公差が厳しいほど、許される寸法範囲は狭くなります。

許容範囲が狭いということは、少しの加工ばらつきで不良になる可能性が高くなるということです。

たとえば、±0.5mmの公差なら問題ない寸法でも、±0.01mmでは外れる可能性があります。

公差を外れた部品は、修正できる場合もありますが、作り直しになることもあります。

特に、削りすぎた寸法は元に戻せません。

そのため、加工者は削りすぎないように慎重に加工します。

この慎重さも加工時間や費用に反映されます。

また、公差が厳しい部品では、不良リスクを見込んだ見積になることもあります。

設計者が気軽に入れた公差でも、製作側ではリスクとして扱われることがあります。


段取りや固定方法も重要になる

厳しい公差を出すには、部品をどのように固定するかも重要になります。

部品の固定が不安定だと、加工中に動いたり、たわんだりして寸法が安定しません。

たとえば、薄いプレート、長い部品、細い突起のある部品では、固定方法に注意が必要です。

また、加工面が複数ある場合は、つかみ替えによる誤差も考える必要があります。

一度の段取りで加工できる寸法と、部品をひっくり返して加工する寸法では、精度の出しやすさが違います。

厳しい位置公差や直角度、平行度が必要な場合は、加工順序や基準の取り方も重要になります。

設計者は、公差を入れるときに、

その寸法は同じ段取りで加工できるのか
基準面は明確か
つかみ替えで精度が出しにくくならないか

を考えることが大切です。


公差を厳しくしても組立が良くなるとは限らない

公差を厳しくすれば、必ず組立が良くなるわけではありません。

むしろ、必要以上に厳しい公差は、組立を難しくすることがあります。

たとえば、部品同士をきつく作りすぎると、少しの誤差やバリで入らなくなることがあります。

調整しながら取り付けたい部分なのに、穴位置をきつくしすぎると、組立時に逃げがなくなります。

カバーやブラケットのような部品では、多少の余裕があった方が組立しやすい場合もあります。

つまり、部品の用途によっては、精度よりも組立余裕が大切な場合があります。

設計では、

精度が必要な部分

余裕が必要な部分

を分けて考える必要があります。

すべてをきつくすれば良い設計になるわけではありません。


はめあい部は目的に合わせて考える

公差が重要になる代表例が、はめあい部です。

はめあいとは、軸と穴の組み合わせのことです。

たとえば、

  • 軸にベアリングを入れる
  • ピンを穴に入れる
  • ブッシュを圧入する
  • シャフトを回転させる
  • カラーを軸に通す

といった部分です。

はめあい部では、すき間が必要な場合もあれば、圧入したい場合もあります。

回転させたいのか。
固定したいのか。
手で抜き差ししたいのか。
圧入して外れないようにしたいのか。

目的によって公差の考え方は変わります。

はめあい部は、なんとなく寸法を厳しくするのではなく、使い方に合わせて決める必要があります。


穴位置公差も必要な場所にだけ入れる

穴位置にも公差が必要な場合があります。

たとえば、位置決めピン穴や、相手部品と精密に合わせる穴では、穴位置の精度が重要になります。

一方で、普通のボルト通し穴では、ある程度の余裕穴にしておけば、そこまで厳しい位置公差が不要な場合もあります。

初心者のうちは、ボルト穴の位置をすべて厳しくしたくなることがあります。

しかし、ボルト穴は締結のための穴であり、位置決めはノックピンや基準面で行う方がよい場合があります。

ボルト穴に位置決めの役割まで持たせると、組立がきつくなることがあります。

設計時には、

その穴は締結用なのか
位置決め用なのか
調整用なのか

を分けて考えることが大切です。

役割が違えば、必要な公差も変わります。


表面粗さや幾何公差も加工費に影響する

加工費に影響するのは、寸法公差だけではありません。

表面粗さや幾何公差も加工費に関係します。

たとえば、表面粗さを細かく指定すると、仕上げ加工が必要になる場合があります。

平面度、平行度、直角度、同軸度、位置度などの幾何公差を厳しく指定すると、加工基準や測定方法が重要になります。

これらは、必要な部分には非常に重要です。

しかし、機能に関係しない面まで細かく指定すると、加工者に不要な負担をかけることになります。

設計者は、

この面はなぜその粗さが必要なのか
この幾何公差は何を保証したいのか
検査できる指示になっているか

を考える必要があります。

公差や粗さは、図面を詳しく見せるためのものではありません。

機能上必要な品質を伝えるためのものです。


一般公差でよい部分を見極める

図面には、個別に公差を入れなくても、一般公差で管理できる寸法があります。

一般公差とは、特別な公差指示がない寸法に適用される標準的な許容差のことです。

部品の外形、逃げ寸法、カバーの位置、干渉しない範囲の寸法などは、一般公差で十分な場合があります。

もちろん、会社や図面ルールによって一般公差の扱いは変わります。

大切なのは、すべての寸法に個別公差を入れることではありません。

機能上重要な寸法だけを明確にすること

です。

個別公差が多すぎる図面は、どこが本当に重要なのか分かりにくくなることがあります。

公差を入れない勇気も、実務では大切です。


公差を決めるときは相手部品も見る

公差は、単独の部品だけで決めるものではありません。

部品は、相手部品と組み合わさって機能します。

そのため、公差を考えるときは、相手部品との関係を見る必要があります。

たとえば、ピンを入れる穴なら、ピン径と穴径の関係を見ます。

ベアリングを入れる穴なら、ベアリング外径と穴の公差を考えます。

カバーを取り付ける穴なら、相手部品の穴位置やボルト径を確認します。

組立寸法に関係する部分なら、複数部品の寸法ばらつきも考えます。

部品単体では問題ない公差でも、組み合わせるときつくなったり、ガタが出たりすることがあります。

設計者は、図面1枚だけでなく、組立状態で公差を考えることが大切です。


厳しい公差には理由が必要

公差を厳しくすること自体が悪いわけではありません。

機能上必要であれば、厳しい公差を指定するべきです。

問題なのは、理由なく厳しい公差を入れることです。

たとえば、

  • どの部品と組み合うのか
  • 何を位置決めするのか
  • 回転するのか
  • 摺動するのか
  • 圧入するのか
  • ガタを抑えたいのか
  • シール性が必要なのか
  • 測定できるのか

を考えずに公差を入れると、加工費だけが上がり、機能にはほとんど効果がない場合があります。

厳しい公差を入れるときは、
なぜその公差が必要なのか
を説明できることが大切です。

説明できない公差は、見直しの対象です。


加工者に相談することも大切

公差の判断に迷う場合は、加工者に相談することも大切です。

特に初心者のうちは、どの程度の公差なら一般的な加工で対応しやすいのか判断しにくいことがあります。

加工者に相談すると、

「この寸法なら問題ありません」
「ここはもう少し緩くできませんか」
「この精度なら加工方法が変わります」
「この形状でこの公差は厳しいです」
「この面を基準にしてくれると加工しやすいです」

といった意見をもらえることがあります。

設計者がすべてを一人で判断する必要はありません。

加工の実務を知っている人と会話しながら、機能と加工性のバランスを取ることが大切です。


初心者が確認したいポイント

公差を入れるときは、次のような内容を確認するとよいです。

  • その公差は本当に必要か
  • 機能に関係する寸法か
  • 相手部品との関係を確認したか
  • 一般公差で問題ない部分ではないか
  • 精度が必要な面と不要な面を分けているか
  • 加工方法が変わるほど厳しくしていないか
  • 測定できる指示になっているか
  • はめあいの目的は明確か
  • 穴は締結用か位置決め用か
  • 組立時に逃げが必要な部分ではないか
  • 表面粗さや幾何公差を過剰に入れていないか
  • 厳しい公差の理由を説明できるか
  • 加工者に相談すべき部分ではないか

公差は、図面の中でも特に設計意図が問われる部分です。

なんとなく厳しくするのではなく、必要性を考えて指定することが重要です。


まとめ

公差を厳しくすると、加工費が上がりやすくなります。

その理由は、

加工方法が変わることがある
加工時間が長くなる
測定や検査の手間が増える
不良や作り直しのリスクが上がる
段取りや固定方法が難しくなる

からです。

もちろん、機能上必要な部分には、適切な公差を入れる必要があります。

しかし、すべての寸法を厳しくすれば良い図面になるわけではありません。

良い図面とは、
必要な部分に必要な精度が指定され、不要な部分には過剰な公差を入れない図面
です。

公差は、設計者の不安を消すためのものではありません。

機械が正しく機能するために必要な範囲を、加工者と検査者に伝えるためのもの

です。

次回は、
「面取り・バリ取りを図面でどう考えるか」
について解説します。