はじめに
機械設計では、部品の形状を考えるときに「加工しやすいかどうか」を意識することが大切です。
図面上では問題なく見える形状でも、実際に加工するとなると手間がかかる場合があります。
初心者のうちは、
「CADでは簡単に描けるから作れるはず」
「少し削ればできそう」
「この形の方が見た目がきれい」
「寸法が入っていれば加工できる」
と考えてしまうことがあります。
しかし実務では、CADで描ける形状と、加工しやすい形状は同じではありません。
加工しにくい形状は、加工時間が長くなったり、専用工具が必要になったり、コストが上がったり、精度が出にくくなったりします。
今回は、機械設計初心者がつまずきやすい
「加工しやすい形状と作りにくい形状の違い」
について解説します。
CADで描ける形状がそのまま作りやすいとは限らない
3D CADを使うと、複雑な形状でも比較的簡単に作成できます。
穴、溝、ポケット、段付き形状、曲面、薄肉形状なども、画面上ではすぐに形にできます。
しかし、実際の加工では工具を使って材料を削ったり、曲げたり、溶接したりして形を作ります。
そのため、加工工具が入らない場所や、材料を固定しにくい形状、変形しやすい形状は作りにくくなります。
たとえば、CAD上では直角の内角を簡単に描けます。
しかしエンドミルで加工する場合、工具には半径があるため、内側の角には必ずRが残ります。
また、深くて細い溝もCADでは簡単に描けますが、実際には細長い工具を使う必要があり、工具が逃げたり、振動したり、加工時間が長くなったりします。
つまり、設計者は形状だけでなく、
その形をどのような工具や加工方法で作るのか
を考える必要があります。
加工しやすい形状とは何か
加工しやすい形状とは、特別な工具や複雑な段取りを使わなくても、無理なく作れる形状です。
たとえば、機械加工であれば、
- 工具が入りやすい
- 加工方向がわかりやすい
- 段取り替えが少ない
- 深すぎる溝や穴がない
- 必要以上に細い形状がない
- 公差が厳しすぎない
- 基準面が取りやすい
といった形状です。
板金部品であれば、
- 曲げやすい形状
- 曲げ同士が干渉しにくい
- 穴が曲げ部に近すぎない
- 展開しやすい
- 溶接や仕上げがしやすい
といった形状になります。
製缶部品であれば、
- 材料を切り出しやすい
- 仮付けしやすい
- 溶接しやすい
- ひずみを抑えやすい
- 後加工しやすい
ことが大切です。
加工しやすい形状は、加工者が迷わず、無理なく、安定して作れる形状です。
深い溝や細い溝は加工しにくい
加工しにくい形状の代表例が、深い溝や細い溝です。
たとえば、幅が狭くて深い溝を加工する場合、細くて長い工具が必要になります。
細い工具は剛性が低く、加工中にたわみやすくなります。
また、工具が折れやすく、加工速度も上げにくくなります。
その結果、加工時間が長くなったり、寸法精度が出にくくなったりします。
特に、溝の底面や側面に精度や面粗さが必要な場合は、さらに加工が難しくなります。
設計時には、
その溝は本当に必要か
深さを浅くできないか
幅を広げられないか
貫通形状にできないか
別部品に分けられないか
を考えることが大切です。
機能上必要のない深い溝は、できるだけ避けた方が加工しやすくなります。
内側の直角形状に注意する
機械加工では、内側の直角形状にも注意が必要です。
エンドミルで削る場合、工具は丸いため、内側の角には工具半径分のRが残ります。
CAD上で内角を完全な直角に描いても、実際にはそのまま削れません。
もし内側を完全な直角にしたい場合は、放電加工や追加加工が必要になることがあります。
その分、加工費や納期に影響します。
多くの場合、内角にRが残っても問題ないことがあります。
そのため、設計時には、
内角は本当に直角でなければならないのか
相手部品に逃げを設けられないか
角Rを許容できないか
を確認することが大切です。
たとえば、相手部品が入るポケット形状であれば、相手部品側に面取りや逃げを設けることで、内角Rを問題にしない設計にできます。
CAD上の見た目だけで直角にするのではなく、加工方法を考えた形状にすることが重要です。
薄すぎる形状は変形しやすい
薄い壁や細い突起も、加工しにくい形状です。
材料を削って薄い部分を残す場合、加工中の力や熱によって変形しやすくなります。
また、細い突起は加工中に振動したり、工具が当たって欠けたりすることもあります。
たとえば、
- 薄いリブ
- 細いピン形状
- 長くて薄いプレート
- 片側だけに残る薄肉部
- 深く削り込んだポケットの壁
などは注意が必要です。
薄い形状が必要な場合でも、加工方法や材料、保持方法を考える必要があります。
場合によっては、
- 別部品に分ける
- 板金部品にする
- 厚みを増やす
- リブを追加する
- 加工後の変形を考慮する
といった検討が必要になります。
薄くすることは、軽量化やスペース確保には有効ですが、加工性や強度とのバランスが大切です。
穴位置が端に近すぎると問題になる
穴位置にも加工しやすさがあります。
穴が部品の端に近すぎると、加工時や使用時に問題が出ることがあります。
たとえば、
- 穴加工時に材料が変形しやすい
- ボルト締付時に端部が割れやすい
- 座面が不足する
- ワッシャがはみ出す
- タップの強度が不足する
- 板金曲げ部と干渉する
といった問題です。
特に、タップ穴やボルト穴は、穴そのものだけでなく、周囲に座面や強度が必要です。
また、板金部品では、穴が曲げ線に近すぎると、曲げ加工時に穴が変形することがあります。
設計時には、
穴の周囲に十分な肉があるか
ボルト座面は確保できるか
曲げや溶接の影響を受けないか
工具が入るか
を確認することが大切です。
穴を配置するときは、単に寸法上入るかどうかだけでなく、加工と締結の両方を考える必要があります。
必要以上に厳しい公差は加工を難しくする
加工しにくさは、形状だけでなく寸法公差にも関係します。
必要以上に厳しい公差を入れると、加工の手間が増えます。
たとえば、本来はそこまで精度が必要ない部品に厳しい寸法公差を入れてしまうと、加工者はその精度を守るために慎重な加工や測定を行う必要があります。
場合によっては、加工方法を変えたり、追加工程が必要になったりします。
その結果、加工費や納期が増えることがあります。
初心者のうちは、
「精度が良い方が安心」
「念のため厳しくしておこう」
と考えてしまうことがあります。
しかし、すべての寸法を厳しくする必要はありません。
重要なのは、
どの寸法が機能に関係するのか
どの寸法は多少ばらついても問題ないのか
を分けて考えることです。
公差は品質を上げるためのものですが、過剰に厳しい公差は加工しにくさとコストアップにつながります。
基準面がわかりにくい形状は加工しにくい
加工では、どこを基準にして加工するかが重要です。
部品図に寸法が入っていても、加工基準がわかりにくい形状では、加工者が迷うことがあります。
たとえば、
- 基準にできる平面が少ない
- 斜め面や曲面ばかりで固定しにくい
- 重要寸法の基準がばらばら
- 表裏の関係がわかりにくい
- 穴位置の基準が機能と合っていない
といった場合です。
加工者は、材料を機械に固定し、基準を取って加工します。
そのため、部品には基準にしやすい面や、測定しやすい寸法の取り方が必要です。
設計時には、
どの面を基準に加工するのか
どの面を基準に組み立てるのか
どの寸法が機能上重要なのか
を考えることが大切です。
基準が整理された図面は、加工者にとっても理解しやすく、ミスを減らしやすくなります。
板金で作りにくい形状
板金部品では、切断、穴あけ、曲げ、溶接などを考える必要があります。
特に曲げ加工では、形状によって作りにくくなることがあります。
たとえば、
- 曲げ同士が近すぎる
- 穴が曲げ線に近すぎる
- 曲げたときに工具と干渉する
- 箱形で曲げ順序が成立しにくい
- 曲げ方向が複雑すぎる
- 展開形状が細くなりすぎる
といった形状です。
CAD上では曲がっているように見えても、実際のプレスブレーキでは工具が入らない、曲げ順序が成立しないということがあります。
また、曲げ部の近くに穴や長穴があると、曲げ時に変形する場合があります。
板金部品を設計するときは、
どの順番で曲げるのか
工具が入るのか
穴や切欠きが曲げに影響しないか
必要以上に複雑な形状になっていないか
を考えることが大切です。
溶接で作りにくい形状
製缶や溶接部品でも、作りやすい形状と作りにくい形状があります。
溶接は便利な加工方法ですが、熱によるひずみが発生します。
そのため、薄板を長く溶接したり、片側だけに溶接が集中したりすると、部品が反ることがあります。
また、狭い場所や奥まった場所では、溶接トーチが入らず、作業しにくくなります。
溶接部品で注意したいのは、
- 溶接しやすい位置か
- トーチが入るか
- 溶接後に仕上げできるか
- ひずみが出やすい構造ではないか
- 後加工する面に影響しないか
- 仮付けしやすい形状か
といった点です。
溶接で何でも付ければよいというものではありません。
溶接量が多いと、加工時間やひずみが増えます。
仕上げが必要な場所では、さらに手間がかかります。
設計時には、溶接で作るのがよいのか、ボルト固定にした方がよいのか、機械加工部品にした方がよいのかを考えることも大切です。
旋盤加工で作りやすい形状
丸物部品では、旋盤加工を考えることがあります。
旋盤加工では、材料を回転させて外径、内径、端面、ねじなどを加工します。
旋盤で作りやすい形状は、基本的に回転対称の形状です。
たとえば、
- シャフト
- カラー
- スペーサ
- ピン
- ブッシュ
- ローラ
などです。
一方で、丸物部品に横穴や平面加工、角形状が多く入ると、旋盤だけでは加工できず、フライス加工や追加工程が必要になります。
もちろん、必要な形状であれば追加加工を行います。
しかし、機能上不要な平面や複雑な切欠きを入れると、加工工程が増えます。
丸物部品を設計するときは、
旋盤だけで作れる形状か
追加加工が必要な理由はあるか
基準を取りやすい形状か
を考えると、加工しやすい図面になります。
加工しやすくするための考え方
加工しやすい形状にするためには、次のような考え方が役立ちます。
- 形状をできるだけシンプルにする
- 必要のない溝や段差を減らす
- 内角Rを許容する
- 工具が入るスペースを確保する
- 深すぎる穴や溝を避ける
- 薄すぎる形状を避ける
- 標準工具で加工できる形状にする
- 基準面をわかりやすくする
- 公差を必要な部分だけに入れる
- 加工方法を想像して形状を決める
加工しやすい形状は、単に加工者のためだけではありません。
加工しやすくなることで、コストを抑えやすくなり、納期も安定しやすくなります。
また、加工ミスや寸法不良のリスクも減らせます。
設計者が加工を意識することは、図面品質を上げることにつながります。
初心者が確認したいポイント
加工形状を考えるときは、次のような内容を確認すると判断しやすくなります。
- その形状は本当に必要か
- 標準的な工具で加工できるか
- 工具が入るスペースはあるか
- 深すぎる溝や穴になっていないか
- 内角にRが残っても問題ないか
- 薄すぎて変形しないか
- 穴が端や曲げ部に近すぎないか
- 必要以上に厳しい公差になっていないか
- 加工基準がわかりやすいか
- 曲げ順序や溶接作業が成立するか
- 後加工や仕上げが必要以上に多くないか
- 別部品に分けた方が作りやすくないか
図面を描く前にこれらを確認すると、加工者に伝わりやすく、作りやすい部品になりやすいです。
まとめ
機械設計では、部品の形状を考えるときに加工しやすさを意識することが大切です。
CADで描ける形状でも、実際の加工では作りにくい場合があります。
深い溝、細い溝、内側の直角、薄すぎる形状、端に近い穴、必要以上に厳しい公差、基準がわかりにくい形状などは、加工の手間やコストが増えやすいポイントです。
加工しやすい形状にするためには、
工具が入ること
基準が取りやすいこと
無理な薄肉や深溝がないこと
必要な部分だけ精度を指定すること
加工方法に合った形状にすること
が大切です。
良い設計とは、図面上で形が成立しているだけではありません。
加工者が無理なく作れて、寸法も安定し、コストや納期にも配慮された設計
です。
設計者が加工しやすさを意識することで、製作現場とのやり取りが減り、手戻りも少なくなります。
次回は、
「組立しやすい設計はどこが違うのか」
について解説します。
