はじめに
機械設計では、溶接構造の部品を使う場面が多くあります。
たとえば、
- 架台
- フレーム
- ブラケット
- ベース
- カバーの骨組み
- タンク
- シュート
- ダクト
- 補強リブ
- 取付座
- 機械装置の支持構造
などです。
溶接構造は、複数の部材を接合して一体化できるため、大きな構造物や強度が必要な部品に向いています。
板材、角パイプ、アングル、チャンネル、丸パイプ、フラットバーなどを組み合わせて作ることも多いです。
しかし、溶接構造には切削部品や板金部品とは違う注意点があります。
初心者のうちは、
「溶接すれば強くなる」
「部品をくっつければよい」
「CAD上で位置が合っていれば問題ない」
「あとで溶接すれば何とかなる」
「溶接後も図面通りの寸法になる」
と考えてしまうことがあります。
しかし実務では、溶接によるひずみ、熱変形、溶接順序、仕上げ加工、溶接記号、すき間、強度、外観、メンテナンス性などを考える必要があります。
今回は、機械設計初心者向けに
「溶接構造で初心者が注意するポイント」
について解説します。
溶接構造とは何か
溶接構造とは、複数の金属部品を溶接で接合して作る構造です。
ボルトで締結するのではなく、材料同士を溶かして接合します。
溶接構造では、次のような部材がよく使われます。
- 鋼板
- 角パイプ
- 丸パイプ
- アングル材
- チャンネル材
- フラットバー
- 丸棒
- 機械加工部品
- 板金部品
これらを組み合わせて、必要な形状や強度を持つ構造にします。
溶接構造の大きな特徴は、大きな部品を比較的自由な形で作れることです。
切削で大きな一体部品を作ると、材料費や加工費が高くなることがあります。
そのような場合、板材や鋼材を溶接して作ることで、コストを抑えながら必要な形状を作れることがあります。
ただし、溶接には熱が入るため、変形やひずみが発生しやすいことを理解しておく必要があります。
溶接は熱を使う加工
溶接で最も大きな特徴は、熱を使うことです。
溶接では、接合する部分に高い熱を加えて金属を溶かします。
その後、冷えて固まることで部材同士が接合されます。
このとき、熱が入った部分は膨張し、冷えると収縮します。
この膨張と収縮によって、部品にひずみや反りが発生することがあります。
図面上では、まっすぐなフレームや平らなプレートに見えていても、溶接後にはわずかに曲がったり、ねじれたりする場合があります。
特に、
- 薄い板
- 長い部材
- 片側だけ溶接する構造
- 溶接箇所が多い構造
- 大きな面を持つ部品
- 精度が必要な取付面がある部品
では注意が必要です。
溶接構造では、完成形だけでなく、
溶接時に熱が入ることでどう変形するか
を考えることが大切です。
溶接ひずみを考える
溶接ひずみとは、溶接時の熱によって部品が変形することです。
溶接ひずみは、溶接構造で非常に重要なポイントです。
たとえば、長い角パイプフレームに片側だけ溶接すると、その部分が引っ張られて反ることがあります。
板にリブを溶接すると、板が反ってしまうこともあります。
大きな架台では、溶接後に対角寸法がずれたり、取付面が平らにならなかったりする場合があります。
溶接ひずみを完全になくすことは簡単ではありません。
しかし、設計段階で次のような工夫をすることで、影響を減らせる場合があります。
- 溶接量を必要以上に増やさない
- 片側だけに熱が集中しない構造にする
- 部材の板厚を極端に薄くしない
- リブや補強の配置を工夫する
- 溶接後に機械加工する面を決めておく
- 精度が必要な部分を溶接部から離す
- 仮付けや治具で固定しやすい構造にする
溶接構造では、ひずみが出ることを前提に設計することが重要です。
溶接すれば強いとは限らない
初心者が誤解しやすいのが、
溶接すれば必ず強い
という考え方です。
確かに、適切に溶接された構造は強度を持たせることができます。
しかし、溶接方法や形状が悪いと、十分な強度が出ないこともあります。
たとえば、
- 溶接長さが不足している
- 溶接サイズが小さい
- 溶接する位置が悪い
- 荷重方向に対して不利な溶接になっている
- 応力が一部に集中している
- 母材が薄すぎる
- 溶接部の近くに切欠きがある
- 溶接後の熱影響で材質が変わる
といった場合です。
溶接部は、ただ部材をくっつける場所ではありません。
力を伝える重要な部分です。
設計時には、
どの方向に力がかかるのか
溶接部にどんな荷重がかかるのか
溶接長さやサイズは十分か
母材側が弱くならないか
を考える必要があります。
溶接量は多ければよいわけではない
溶接は、たくさん入れれば安心というものではありません。
溶接量を増やすと、強度面で有利になる場合もあります。
しかし、必要以上に溶接を増やすと、熱が多く入り、ひずみが大きくなりやすくなります。
また、溶接時間が増えるため、コストも上がります。
たとえば、全面をぐるりと溶接する必要がない部品でも、なんとなく全周溶接にしてしまうことがあります。
しかし、断続溶接で十分な場合や、片側だけでよい場合もあります。
もちろん、水密・気密が必要なタンクや配管部品では、全周溶接が必要になる場合があります。
大切なのは、
必要な機能に対して適切な溶接量にすること
です。
設計時には、
強度のための溶接なのか
密閉のための溶接なのか
位置保持のための溶接なのか
外観のための溶接なのか
を分けて考えることが大切です。
精度が必要な面は溶接後加工を考える
溶接構造で重要なのが、溶接後の機械加工です。
溶接すると、ひずみや変形が発生することがあります。
そのため、精度が必要な面や穴は、溶接後に加工した方がよい場合があります。
たとえば、
- ベースの取付面
- モーター取付面
- ベアリング取付面
- ガイドレール取付面
- シリンダ取付面
- 位置決めピン穴
- 基準面
- 高さが重要な座面
などです。
これらを溶接前の部材に加工しておいても、溶接後に位置がずれてしまうことがあります。
精度が必要な部分は、
溶接後に機械加工する
という考え方が重要です。
その場合、図面では「溶接後加工」や「機械加工面」を明確にする必要があります。
溶接構造では、どこまでを製缶・溶接で作り、どこを後加工で仕上げるのかを分けて考えます。
取付穴は溶接後にあける場合もある
溶接構造の取付穴も注意が必要です。
部材単体の段階で穴をあけておいても、溶接後に位置がずれることがあります。
特に、複数部品との取り合いがある穴や、精度が必要な穴では注意が必要です。
たとえば、
- 装置ベースへの固定穴
- ガイドレール取付穴
- モーター取付穴
- 位置決めピン穴
- 相手装置と合わせる穴
- 長いフレームの両端穴
などです。
これらは、溶接後にまとめて加工した方が寸法を出しやすい場合があります。
ただし、溶接後に穴加工するには、加工機に載せられる大きさか、工具が入るか、基準を取れるかを考える必要があります。
設計時には、
この穴は溶接前でよいのか
溶接後加工が必要なのか
加工機で対応できる大きさか
加工基準はどこにするのか
を確認します。
溶接部の近くに精密部品を置かない
溶接部の近くは、熱の影響を受けやすい場所です。
そのため、精度が必要な部品や、熱に弱い部品を近くに配置する場合は注意が必要です。
たとえば、溶接部のすぐ近くに、
- ベアリング
- 樹脂部品
- ゴム部品
- センサー
- 配線
- シール材
- 精密ガイド
- 表面処理済み部品
があると、熱やスパッタ、ひずみの影響を受けることがあります。
もちろん、実際の組立順序によっては、溶接後にこれらを取り付けるため問題ない場合もあります。
しかし、溶接構造を設計するときは、
溶接するタイミング
と
精密部品を取り付けるタイミング
を分けて考えることが大切です。
溶接後に機械加工し、塗装し、その後に購入品を組み付ける流れを意識すると、設計ミスを減らせます。
溶接できる姿勢を考える
溶接構造では、溶接作業ができる姿勢かどうかも重要です。
CAD上では、どんな場所にも溶接ビードを入れられるように見えます。
しかし実際には、溶接トーチや手が入らない場所は溶接しにくくなります。
たとえば、
- 狭いすき間の奥
- 箱形状の内側
- パイプの裏側
- 部材が重なった内側
- フレームの隅
- すでに組んだ後では手が入らない場所
では、溶接が難しくなることがあります。
設計時には、
溶接トーチが入るか
作業者が溶接部を見られるか
部材を反転できるか
仮付けしやすいか
溶接順序に無理がないか
を考えます。
溶接は、図面上の線ではなく、実際に人が作業する加工です。
すき間が大きいと溶接しにくい
溶接する部材同士のすき間にも注意が必要です。
部材同士が大きく離れていると、溶接が難しくなったり、溶接量が増えたりします。
すき間が大きいと、溶接で埋めるような作業になり、見た目や強度、ひずみに影響することがあります。
逆に、部材同士をぴったり合わせすぎても、実際の切断誤差や組立誤差で組み付かない場合があります。
溶接構造では、
部材が組み付けやすいか
仮付けしやすいか
溶接に適したすき間か
部材同士の当たり方が安定しているか
を考えることが大切です。
切断部材の精度、溶接治具、仮付け、作業性まで含めて見る必要があります。
補強リブの入れ方に注意する
溶接構造では、強度や剛性を上げるために補強リブを入れることがあります。
リブを入れることで、板のたわみを抑えたり、ブラケットを強くしたりできます。
しかし、リブを入れれば必ず良くなるわけではありません。
リブを入れすぎると、溶接箇所が増え、ひずみが大きくなる場合があります。
また、リブの端部に応力が集中したり、清掃しにくい隙間ができたりすることもあります。
補強リブを設計するときは、
どの方向の力を受けるのか
どこがたわみやすいのか
リブの溶接でひずみが出ないか
リブ端部に応力集中しないか
メンテナンスや清掃の邪魔にならないか
を確認します。
補強は、やみくもに増やすのではなく、力の流れを考えて入れることが大切です。
溶接部の外観が必要な場合もある
溶接部は、強度だけでなく外観が問題になる場合もあります。
装置の外から見える部分や、お客様が触れる部分では、溶接ビードの見た目が気になることがあります。
また、カバーや外装部品では、溶接跡を仕上げたい場合もあります。
一方で、外観をきれいにするために溶接ビードを削りすぎると、強度に影響する場合があります。
設計時には、
溶接ビードを残してよいのか
仕上げが必要なのか
見える場所なのか
強度を優先する場所なのか
塗装後の見た目は問題ないか
を考えます。
図面でも、必要に応じて「ビード仕上げ」「溶接後グラインダー仕上げ」などの指示を検討します。
ただし、過剰な仕上げはコストアップにつながるため、必要な場所に限定することが大切です。
スパッタや焼けにも注意する
溶接では、スパッタや焼けが発生することがあります。
スパッタとは、溶接中に飛び散る金属粒のことです。
スパッタが付着すると、外観不良や組立不良の原因になることがあります。
また、ステンレスなどでは溶接焼けが問題になる場合があります。
装置の外観面、摺動面、シール面、取付面などにスパッタが付くと、後処理が必要になります。
設計時には、
スパッタが付いて困る面はないか
溶接後に仕上げや除去が必要か
表面処理前に処理すべきか
外観面に溶接が出ない構造にできないか
を考えることが大切です。
溶接部の周辺状態まで考えることで、仕上がり品質を安定させやすくなります。
溶接記号を正しく使う
図面で溶接を指示する場合、溶接記号を使います。
溶接記号は、溶接の種類、位置、サイズ、長さ、範囲などを伝えるためのものです。
たとえば、
- すみ肉溶接
- 突合せ溶接
- 全周溶接
- 断続溶接
- 溶接脚長
- 溶接長さ
- 現場溶接
- 仕上げの有無
などを指示します。
初心者のうちは、溶接記号を入れずに「溶接」とだけ書いてしまうことがあります。
しかし、それでは加工者がどこをどれくらい溶接すればよいか判断しにくくなります。
ただし、会社や加工先によって図面ルールがある場合もあります。
設計時には、溶接記号の基本を理解し、必要な情報が伝わる図面にすることが大切です。
溶接指示を入れすぎると図面が見にくくなる
溶接指示は重要ですが、入れすぎると図面が見にくくなることがあります。
すべての接合部に細かく記号を入れると、どこが本当に重要なのか分かりにくくなります。
また、溶接記号が多すぎると、寸法や他の注記と重なり、図面全体が読みにくくなることがあります。
溶接構造では、
強度上重要な溶接部
密閉性が必要な溶接部
外観や仕上げが必要な溶接部
一般的な接合でよい溶接部
を分けて考えることが大切です。
必要に応じて、注記で共通指示を入れ、重要部分だけ個別指示する方法もあります。
図面では、情報量を増やすことよりも、必要な情報を分かりやすく伝えることが重要です。
溶接構造はメンテナンス性も考える
溶接構造は、一体化できることがメリットです。
しかし、一体化すると分解できなくなるというデメリットもあります。
たとえば、摩耗する部品や交換が必要な部品を溶接で固定してしまうと、修理や交換が大変になります。
その場合は、溶接ではなくボルト止めにした方がよいことがあります。
設計時には、
将来交換する部品ではないか
調整が必要な部分ではないか
現地で分解する必要がないか
溶接するとメンテナンスが難しくならないか
を確認します。
溶接は強固に固定できますが、分解できない構造になります。
固定するべき部分と、分解できるようにすべき部分を分けて考えることが大切です。
ボルト締結との使い分けを考える
溶接とボルト締結は、それぞれ特徴があります。
溶接は、一体化できて強度を出しやすい反面、分解しにくく、ひずみが出やすいです。
ボルト締結は、分解や調整がしやすい反面、部品点数が増え、穴加工や座面が必要になります。
たとえば、架台本体は溶接構造にし、調整が必要な取付部はボルト止めにすることがあります。
また、摩耗するガイドやストッパは、溶接ではなく交換できるようにボルト止めにすることがあります。
設計時には、
一体化した方がよい部分
分解できた方がよい部分
調整が必要な部分
交換が必要な部分
を分けて考えます。
溶接とボルト締結を適切に使い分けることで、作りやすく使いやすい構造になります。
図面では溶接後の状態を考えて寸法を入れる
溶接構造の図面では、溶接後の状態を考えて寸法を入れることが大切です。
部材単体の寸法だけでなく、溶接後に必要な全体寸法、取付寸法、基準寸法を明確にします。
特に、
- 全体の幅、高さ、奥行き
- 対角寸法
- 取付面の位置
- 穴位置
- 基準面
- 機械加工する面
- 塗装後に必要な寸法
などは注意が必要です。
溶接構造では、組み立てた後の状態が重要です。
そのため、図面では
溶接前の部材寸法
と
溶接後に保証したい寸法
を分けて考えます。
必要に応じて、溶接後加工や溶接後検査の指示を入れることもあります。
初心者が確認したいポイント
溶接構造を設計するときは、次のような内容を確認するとよいです。
- 溶接によるひずみを考えているか
- 溶接量を必要以上に増やしていないか
- 片側だけに熱が集中しないか
- 溶接すれば強いと考えていないか
- 荷重方向に対して溶接位置は適切か
- 精度が必要な面は溶接後加工にしているか
- 取付穴は溶接前加工でよいか
- 溶接後に加工機へ載せられるか
- 溶接トーチや作業者の手が入るか
- 部材同士のすき間は適切か
- 補強リブを入れすぎていないか
- 溶接ビードの外観や仕上げは必要か
- スパッタが問題になる面はないか
- 溶接記号や注記は分かりやすいか
- 分解・交換が必要な部品を溶接していないか
- ボルト締結にした方がよい部分はないか
溶接構造は、強度だけでなく、加工、ひずみ、仕上げ、メンテナンスまで考える必要があります。
まとめ
溶接構造は、複数の部材を接合して一体化できる便利な構造です。
架台、フレーム、ブラケット、ベース、シュート、ダクトなど、機械設計ではよく使われます。
しかし、溶接構造では、
溶接ひずみ
熱変形
溶接量
溶接強度
溶接後加工
取付穴の加工タイミング
作業性
すき間
補強リブ
外観仕上げ
溶接記号
メンテナンス性
を考える必要があります。
良い溶接構造とは、単に部材をくっつけた構造ではありません。
溶接で作ることを前提に、ひずみ・加工・強度・組立・保守まで考えた構造
です。
初心者のうちは、まず
溶接すると熱で変形する
精度が必要な面は溶接後加工を考える
交換が必要な部品は安易に溶接しない
この3点を意識するとよいです。
次回は、
「製缶部品でひずみや後加工を考える」
について解説します。
