はじめに
機械設計では、機械が正しく動くこと、部品が作れること、組み立てられることが大切です。
しかし、それと同じくらい重要なのが安全です。
機械は、動く、回る、押す、引く、持ち上げる、搬送するなど、人の力では難しい作業を行います。
その分、使い方や構造によっては、作業者に危険を与える可能性があります。
初心者のうちは、
「まずは動く形を考えよう」
「安全カバーはあとで付ければよい」
「危なそうなところは現場で注意してもらえばよい」
「最終的に安全対策を追加すれば大丈夫」
と考えてしまうことがあります。
しかし実務では、安全を後回しにすると、あとから大きな手戻りになることがあります。
今回は、機械設計初心者がつまずきやすい
「安全を考えない設計はあとで大きな手戻りになる」
という内容について解説します。
安全は最後に追加するものではない
安全対策は、設計の最後に付け足すものではありません。
もちろん、設計が進んだあとに追加でカバーやセンサーを検討することもあります。
しかし、最初から安全を考えていない設計では、あとから対策しようとしても無理が出る場合があります。
たとえば、
- カバーを付けるスペースがない
- 安全柵を置くと作業スペースがなくなる
- センサーを取り付ける場所がない
- 非常停止ボタンに手が届かない
- カバーを付けるとメンテナンスできない
- インターロックを追加すると配線経路が足りない
- 可動部の位置を変更しないと危険が残る
といったことが起きます。
このような場合、安全対策のために、機械全体のレイアウトや構造を見直す必要が出てきます。
安全は、設計初期から考えておく方が、結果的に手戻りを減らしやすくなります。
動く部分には危険がある
機械の中で特に注意したいのが、動く部分です。
動く部分には、挟まれ、巻き込まれ、衝突、落下などの危険があります。
たとえば、
- シリンダで押す部分
- モーターで回転する部分
- スライドする部分
- 昇降する部分
- 開閉する扉
- 搬送されるワーク
- ローラやベルト
- チェーンやギヤ
などです。
止まっている状態では危なく見えなくても、動いたときに危険になることがあります。
たとえば、シリンダで動く部品と固定部の間に手が入ると、挟まれの危険があります。
回転部に手袋や作業服が近づくと、巻き込まれの危険があります。
昇降部では、落下や押しつぶしの危険があります。
設計時には、
人がどこに立つのか
手を入れる可能性がある場所はどこか
動作中に近づける場所はどこか
を考える必要があります。
挟まれやすい場所を確認する
安全を考えるときに、まず確認したいのが挟まれやすい場所です。
機械には、可動部と固定部の間にすき間ができることがあります。
たとえば、
- シリンダで押す部品とフレームの間
- スライド部の端とストッパの間
- 昇降部と下部フレームの間
- 扉と固定カバーの間
- ワークとガイドの間
- 治具とクランプの間
このような場所は、手や指が入ると危険です。
特に、作業者がワークをセットする場所や、調整時に手を入れる場所は注意が必要です。
「通常動作では手を入れないはず」と思っていても、現場では段取り替え、清掃、異常対応、ワーク詰まりの除去などで手を入れる可能性があります。
設計者は、正常運転時だけでなく、非定常作業も考える必要があります。
挟まれの危険がある場合は、
- カバーを設ける
- 手が入らないすき間にする
- 両手操作にする
- インターロックを設ける
- 動作速度を下げる
- 危険部に近づかないレイアウトにする
といった対策を検討します。
巻き込まれに注意する
回転部や搬送部では、巻き込まれに注意が必要です。
巻き込まれは、回転する部品や移動する部品に、手、服、手袋、髪、工具などが引き込まれる危険です。
たとえば、
- ローラ
- ベルト
- チェーン
- ギヤ
- プーリ
- シャフト
- カップリング
- 回転テーブル
などは注意が必要です。
特に、ローラとベルトの間、チェーンとスプロケットの間、ギヤのかみ合い部などは、巻き込まれやすい場所です。
巻き込まれ対策としては、
- カバーを付ける
- 手が届かない位置にする
- 開口部を小さくする
- 点検時は停止状態で作業する構造にする
- インターロック付きカバーにする
- 注意表示を行う
などがあります。
回転部は、動いているときだけでなく、惰性で回り続ける場合もあります。
停止ボタンを押した直後でも完全に止まっていないことがあるため、設計時には停止後の安全も考える必要があります。
落下や飛散の危険を考える
機械設計では、落下や飛散の危険も考える必要があります。
たとえば、昇降装置では、持ち上げた部品やワークが落下する可能性があります。
吊り下げている部品、上下に動くテーブル、開閉する重い扉なども注意が必要です。
また、加工や搬送の状態によっては、ワークや破片、切粉、液体が飛ぶこともあります。
落下や飛散の危険がある場合は、
- 落下防止ストッパを設ける
- 機械的に支える構造にする
- カバーで囲う
- 飛散方向に人が立たないレイアウトにする
- ワークを確実に保持する
- 異常時に安全側へ止まる構造にする
といった対策が必要です。
特に、エアシリンダやモーターだけで保持している構造では、電源やエアが切れたときにどうなるかを考える必要があります。
安全設計では、正常に動いているときだけでなく、止まったとき、壊れたとき、動力がなくなったときも考えることが大切です。
作業者の立ち位置を考える
安全を考えるときは、作業者がどこに立つのかを確認することが大切です。
機械の危険部があっても、作業者が近づけない構造であればリスクを下げられます。
反対に、作業者がワークをセットする場所や操作する場所の近くに危険部がある場合は、しっかり対策が必要です。
たとえば、
- ワークセット位置の近くに可動部がある
- 操作ボタンを押す位置から危険部が見えない
- 作業者の背後を搬送物が通る
- 点検時に可動部の下へ入る必要がある
- 通路側へ扉が開く
- 非常停止ボタンにすぐ手が届かない
このようなレイアウトは注意が必要です。
安全な機械にするためには、機械本体だけでなく、作業者の動線や立ち位置も含めて考える必要があります。
現場で人がどう動くかを考えることで、危険な配置に気づきやすくなります。
カバーを付ければよいとは限らない
安全対策というと、まずカバーを思い浮かべるかもしれません。
確かに、危険部を覆うカバーは有効な安全対策のひとつです。
しかし、カバーを付ければすべて解決するわけではありません。
たとえば、
- カバーを外さないと作業できない
- 点検のたびにカバーを外す必要がある
- カバーを外した状態でも機械が動いてしまう
- カバーが重くて外しにくい
- カバーを付けたことで視認性が悪くなる
- カバー内に汚れがたまりやすくなる
といった問題が起きることがあります。
カバーは安全性を高める一方で、作業性やメンテナンス性にも影響します。
そのため、カバーを設計するときは、
安全に覆えること
必要なときに点検できること
外した状態で危険が残らないこと
作業者が無理なく扱えること
を考える必要があります。
場合によっては、透明カバー、点検窓、蝶番式カバー、インターロック付きカバーなどを検討します。
非常停止の位置を考える
機械には、異常時にすぐ止められることも重要です。
非常停止ボタンは、単に付いていればよいというものではありません。
作業者が危険を感じたときに、すぐ押せる位置にあることが大切です。
たとえば、
- 作業位置から手が届くか
- 機械の反対側にも必要ではないか
- 視認しやすい位置にあるか
- 障害物で隠れていないか
- 作業者が移動しないと押せない位置ではないか
- メンテナンス中にも押せるか
を確認します。
大きな装置や複数人が関わる設備では、非常停止を複数箇所に設ける必要がある場合もあります。
設計者は、操作盤の中に非常停止を入れるだけでなく、実際の作業位置から見て適切かを考える必要があります。
非常停止は、異常時の最後の手段です。
だからこそ、使える位置にあることが重要です。
調整や清掃時の安全を考える
機械の危険は、通常運転中だけにあるわけではありません。
調整、清掃、段取り替え、部品交換、異常復旧などの作業中にも危険があります。
むしろ、通常運転ではカバーで守られていても、メンテナンス時にカバーを開けることで危険部に近づくことがあります。
たとえば、
- センサー調整のために可動部へ手を入れる
- ワーク詰まりを取り除く
- 清掃のためにローラ付近へ近づく
- ベルト張り調整をする
- シリンダ位置を調整する
- カバーを外した状態で動作確認する
このような作業は、設計段階で想定しておく必要があります。
安全を考えるときは、通常運転だけでなく、非定常作業も見ることが大切です。
調整や清掃が必要な部分は、できるだけ安全な姿勢で作業できるようにします。
また、必要に応じて低速運転、手動操作、インターロック、ロックアウトなどの考え方も重要になります。
安全と作業性のバランスを考える
安全対策は大切ですが、作業性とのバランスも考える必要があります。
安全のためにカバーを増やしすぎると、点検や清掃がしにくくなることがあります。
作業のたびにカバーを外さなければならない構造では、現場でカバーを外したまま使われる危険もあります。
これは非常に危ない状態です。
安全対策は、現場で正しく使われて初めて意味があります。
そのため、
- 作業の邪魔になりすぎないか
- 点検や清掃ができるか
- カバーを外さずに確認できる部分はないか
- 開閉しやすい構造にできないか
- 作業者が自然に安全な使い方をできるか
を考える必要があります。
安全と作業性は、どちらか一方だけを優先するものではありません。
安全を確保しながら、現場で使いやすい構造にすることが大切です。
安全対策は図面にも表す
安全対策を考えたら、それを図面や資料にも表す必要があります。
たとえば、
- カバーの範囲
- 開閉方向
- 点検窓
- インターロックの有無
- 非常停止の位置
- 注意銘板の位置
- 危険部への接近防止
- 落下防止部品
- 安全柵との関係
などです。
安全に関わる部品は、単に形状として描くだけでなく、目的が伝わるようにすることも大切です。
組立図やレイアウト図で、作業者の位置やカバーの開閉範囲がわかるようにしておくと、関係者と確認しやすくなります。
安全対策は、設計者だけが頭の中で考えていても不十分です。
加工者、組立者、客先、現場担当者と共有できる形にしておくことが重要です。
初心者が確認したいポイント
安全を考えるときは、次のような内容を確認すると整理しやすくなります。
- 可動部に手や指が入らないか
- 回転部に巻き込まれる危険はないか
- 昇降部や重量物の落下リスクはないか
- ワークや破片が飛散しないか
- 作業者はどこに立つのか
- 操作位置から危険部が見えるか
- 非常停止にすぐ手が届くか
- カバーを付けるスペースはあるか
- カバーを外さずに点検できるか
- カバーを外した状態で動かない構造か
- 清掃や調整時に危険がないか
- 動力が切れたときに危険な動きをしないか
- 安全対策でメンテナンス性を悪くしすぎていないか
安全は、チェック項目として最後に見るだけではなく、設計の最初から意識する必要があります。
まとめ
機械設計では、安全を後回しにすると大きな手戻りにつながります。
あとからカバーやセンサーを追加しようとしても、スペースがない、作業性が悪くなる、メンテナンスできなくなるなどの問題が起きることがあります。
安全を考えるときは、
挟まれ
巻き込まれ
落下
飛散
衝突
非常停止
清掃・調整時の危険
を確認することが大切です。
初心者のうちは、まず機械を動かすことに意識が向きがちです。
しかし実務では、動くことより先に、
安全に使えること
を考える必要があります。
良い設計とは、ただ動く機械を作ることではありません。
作業者が安全に使え、点検や清掃も無理なく行え、異常時にも危険を減らせる設計
です。
安全は、あとから付け足すものではなく、設計の最初から考えるべき重要な条件です。
次回は、
「コストが上がりやすい設計の特徴」
について解説します。
