はじめに

機械設計では、動く部分を設計する場面が多くあります。

たとえば、スライドする部品、回転する部品、上下に昇降する部品、開閉する扉、シリンダで押す機構、モーターで回す機構などです。

動く部分は、機械らしさが出る部分でもあります。
そのため、初心者のうちは「どう動かすか」に意識が向きやすくなります。

しかし実務では、動けばよいというわけではありません。

動く部分には、

ガタが出ないか
干渉しないか
止まる位置は安定するか
配線や配管に無理がないか
安全に使えるか
メンテナンスできるか

といった確認が必要です。

今回は、機械設計初心者がつまずきやすい
「動く部分を設計するときに考えること」
について解説します。


動く部分はトラブルが出やすい

機械の中でも、動く部分はトラブルが出やすい場所です。

理由は、動作によって部品同士の位置関係が変わるからです。

止まっている状態では問題がなくても、動かしたときにカバーへ当たる。
初期位置では配線に余裕があっても、動作端では引っ張られる。
組立時はスムーズに動いても、荷重がかかると動きが悪くなる。

このようなことがあります。

固定部品であれば、取り付けた後の位置関係は大きく変わりません。
しかし可動部では、動作範囲全体で問題がないか確認する必要があります。

初心者のうちは、部品が止まっている状態だけを見て設計してしまいがちです。

しかし実務では、

動き始め
途中位置
動作端
戻り動作
異常時

まで考えることが大切です。


動作範囲を確認する

動く部分を設計するときに、まず確認したいのが動作範囲です。

スライドであれば、どこからどこまで動くのか。
回転であれば、何度回るのか。
昇降であれば、どの高さまで上がり、どこまで下がるのか。
扉であれば、どちらへどのくらい開くのか。

動作範囲があいまいなまま設計すると、あとから干渉やスペース不足が起きます。

たとえば、

  • シリンダが伸びたときにフレームへ当たる
  • 回転部品が近くのカバーに干渉する
  • スライド端でワークが隣の部品に当たる
  • 扉を開けたときに通路をふさぐ
  • 昇降部が上昇したときに天井や配管に当たる

といった問題です。

動く部分は、停止位置だけでなく、動作中のすべての位置を確認します。

CAD上でも、可動範囲を簡単な線や円で表しておくと確認しやすくなります。


ガイド方法を考える

動く部分では、どのように案内するかが重要です。

スライドする部品であれば、リニアガイド、シャフト、レール、長穴、ガイドローラなど、さまざまな案内方法があります。

回転する部分であれば、軸受、ブッシュ、ピン、ベアリングなどを使うことがあります。

ここで大切なのは、駆動する部品と案内する部品の役割を分けて考えることです。

たとえば、シリンダは押したり引いたりするための部品です。
しかし、シリンダだけで横荷重を受けたり、部品を正確に案内したりするのは苦手な場合があります。

そのため、動く部分では、

駆動はシリンダ
案内はリニアガイドやシャフト
荷重はフレームやストッパへ逃がす

というように、役割を分けて考えることがあります。

初心者のうちは、「シリンダで動かすからそれで支えればよい」と考えがちです。

しかし実務では、シリンダやモーターに無理な力をかけない構造にすることが大切です。


ガタと精度を考える

動く部分では、ガタも重要なポイントです。

ガタとは、部品同士のすき間やゆるみによって発生する余分な動きのことです。

ガタが大きいと、

  • 停止位置が安定しない
  • ワークの位置がずれる
  • 振動や異音が出る
  • センサー検出が不安定になる
  • 摩耗が進みやすくなる
  • 組立後の調整が難しくなる

といった問題が出ます。

ただし、ガタを完全になくせばよいというものでもありません。

動く部分には、ある程度のすき間が必要です。
すき間がなさすぎると、動きが重くなったり、組立時に調整が難しくなったり、熱や汚れで動かなくなったりします。

大切なのは、

どの部分は精度が必要なのか
どの部分は多少の逃げがあってよいのか

を分けて考えることです。

位置決めが必要な部分は基準を明確にする。
動きの逃げが必要な部分は長穴や調整代を設ける。
摩耗しやすい部分は交換できる構造にする。

このような考え方が必要です。


干渉確認は必ず行う

動く部分では、干渉確認が非常に重要です。

固定状態では問題がなくても、動作中に部品同士が当たることがあります。

特に注意したいのは、動作端です。

シリンダが伸び切った位置。
スライドが一番奥まで行った位置。
回転部が最大角度まで動いた位置。
扉が全開になった位置。

こうした位置で、周辺部品やカバー、配管、配線、作業者の手と干渉しないか確認します。

また、ワークを持った状態と、ワークがない状態でも確認が必要です。

ワークがあるときだけ干渉する。
ワークが傾いたときに当たる。
ワークのばらつきで引っかかる。

このような問題もあります。

可動部の干渉確認では、部品単体ではなく、ワーク、工具、作業者、配線配管まで含めて考えることが大切です。


ストッパを考える

動く部分には、止める位置が必要になることがあります。

そのときに重要なのがストッパです。

ストッパは、部品を決まった位置で止めたり、動き過ぎを防いだりする役割があります。

たとえば、シリンダで動く機構では、シリンダのストローク端だけで位置を決めるのではなく、機械側にストッパを設けることがあります。

理由は、停止位置の安定や、シリンダへの負担軽減のためです。

ストッパを考えるときは、

  • どこで荷重を受けるのか
  • 衝撃はあるのか
  • 調整できる必要があるか
  • 当たり面は摩耗しないか
  • ゴムやウレタンで衝撃を吸収するか
  • ストッパ部品を交換できるか

を確認します。

止めるだけなら簡単に見えますが、ストッパには荷重や衝撃が集中しやすいです。

そのため、動く部分を設計するときは、動かす方法だけでなく、どう止めるかも考える必要があります。


配線・配管の動きを考える

可動部でよく見落とされるのが、配線や配管の動きです。

センサー線、モーターケーブル、エアチューブ、油圧ホースなどが可動部についている場合、部品の動きに合わせて配線や配管も動きます。

このとき、

  • 動作端で引っ張られないか
  • 曲げ半径に無理がないか
  • こすれる場所はないか
  • 挟まれる場所はないか
  • ねじれないか
  • メンテナンス時に外しやすいか

を確認する必要があります。

機械本体の動きは問題なくても、配線や配管が引っ張られると断線やエア漏れの原因になります。

また、ケーブルベアを使う場合は、取り付けスペースや可動範囲、曲げ方向も考える必要があります。

初心者のうちは、部品の動きだけを見てしまい、配線配管の取り回しを後回しにしがちです。

しかし可動部では、配線や配管も設計の一部として考えることが大切です。


駆動源に無理をさせない

動く部分には、シリンダ、モーター、手動ハンドルなどの駆動源があります。

駆動源は、部品を動かすためのものです。

しかし、駆動源に案内、位置決め、荷重受けまでさせてしまうと、トラブルの原因になることがあります。

たとえば、シリンダに横荷重がかかる構造では、ロッドに無理がかかり、動作不良や早期摩耗につながる可能性があります。

モーター軸に直接大きな荷重を受けさせると、軸受に負担がかかることがあります。

駆動源を選ぶときは、

  • 必要な推力やトルクは足りるか
  • 速度は適切か
  • 荷重は別の部品で受けられるか
  • 位置決め方法は適切か
  • 異常時に過負荷にならないか
  • メンテナンスしやすい位置にあるか

を考えます。

動かす部品と支える部品を分けることで、駆動源への負担を減らすことができます。


安全性を考える

動く部分では、安全性を必ず考える必要があります。

可動部には、挟まれ、巻き込まれ、衝突、落下などの危険があります。

たとえば、

  • シリンダで動く部品の間に手が入る
  • 回転部に作業服や手袋が巻き込まれる
  • 昇降部が落下する可能性がある
  • 扉が勢いよく閉まる
  • ワークが飛び出す可能性がある

といった危険です。

安全対策としては、カバー、安全柵、非常停止、インターロック、両手操作、落下防止、速度制限などを考えることがあります。

ここで大切なのは、安全対策を後回しにしないことです。

あとからカバーを追加しようとすると、動作範囲やメンテナンススペースと干渉することがあります。

動く部分を設計するときは、初期段階から安全対策を含めて考える必要があります。


メンテナンス性を考える

動く部分は、摩耗や劣化が起きやすい部分でもあります。

そのため、メンテナンス性を考えた設計が必要です。

たとえば、

  • ガイド部に給油できるか
  • 摩耗部品を交換できるか
  • センサー位置を調整できるか
  • ストッパ部品を交換できるか
  • ベルトやチェーンを張れるか
  • カバーを外さずに点検できるか
  • 動作確認が安全にできるか

といった点です。

動く部分は、組み立てた直後だけでなく、使い続ける中で状態が変わります。

摩耗すればガタが増えます。
ボルトが緩めば位置がずれます。
汚れがたまれば動きが悪くなります。

そのため、点検、調整、交換ができる構造にしておくことが大切です。


初心者が確認したいポイント

動く部分を設計するときは、次のような内容を確認すると考えやすくなります。

  • どこからどこまで動くのか
  • 動作途中で干渉しないか
  • 動作端で周辺部品に当たらないか
  • ワークを持った状態でも問題ないか
  • どの部品で案内するのか
  • どの部品で荷重を受けるのか
  • ガタは問題にならないか
  • 必要な精度はどのくらいか
  • どうやって停止位置を決めるのか
  • ストッパは必要か
  • 配線や配管に無理はないか
  • 駆動源に横荷重や過負荷がかからないか
  • 安全カバーや非常停止は必要か
  • メンテナンスや調整ができるか

動く部分は、形だけでなく、動作、荷重、安全、保守まで含めて考えることが大切です。


まとめ

動く部分を設計するときは、単に「動けばよい」と考えてはいけません。

機械設計では、動作範囲、ガイド方法、ガタ、干渉、ストッパ、配線配管、駆動源、安全性、メンテナンス性を確認する必要があります。

特に初心者は、停止状態だけを見て設計してしまいがちです。

しかし可動部では、

動き始め
動作途中
動作端
戻り動作
異常時

まで考えることが大切です。

また、シリンダやモーターなどの駆動源に、案内や荷重受けまで無理に任せないことも重要です。

動かす部品、案内する部品、荷重を受ける部品、止める部品の役割を分けることで、安定した機構になりやすくなります。

良い可動部設計とは、ただ動く設計ではありません。

スムーズに動き、正しく止まり、安全に使え、メンテナンスできる設計

です。

次回は、
「ボルトで固定するだけでも考えることは多い」
について解説します。