はじめに
機械設計では、機能を満たすことが大切です。
必要な動作をすること。
十分な強度があること。
安全に使えること。
加工できること。
組み立てられること。
これらは、どれも重要な設計条件です。
しかし実務では、それに加えてコストも考える必要があります。
初心者のうちは、
「強度が心配だから大きくしておこう」
「念のため公差を厳しくしておこう」
「ステンレスにしておけば安心」
「全部削り出しにすればきれいに作れる」
「部品を分ければ設計しやすい」
と考えてしまうことがあります。
もちろん、その判断が必要な場合もあります。
しかし、理由があいまいなまま過剰な設計をすると、製作コストが大きく上がることがあります。
今回は、機械設計初心者がつまずきやすい
「コストが上がりやすい設計の特徴」
について解説します。
コストは材料費だけではない
コストというと、まず材料費を思い浮かべるかもしれません。
確かに、材料の種類や大きさはコストに影響します。
しかし、機械部品のコストは材料費だけでは決まりません。
実際には、
- 材料費
- 加工費
- 表面処理費
- 溶接費
- 組立費
- 調整費
- 購入品費
- 検査費
- 運搬費
- 手配や管理の手間
などが関係します。
たとえば、材料費が安くても、加工に時間がかかれば全体のコストは上がります。
反対に、材料費が少し高くても、加工が簡単になり、組立時間が短くなるなら、結果的に安くなる場合もあります。
設計者は、部品単体の材料費だけでなく、
作るまでにどれだけ手間がかかるか
組み立てるときにどれだけ時間がかかるか
調整や検査にどれだけ工数がかかるか
まで考えることが大切です。
必要以上に大きい部品はコストが上がる
コストが上がりやすい設計のひとつが、必要以上に大きい部品です。
強度が心配なときに、板厚を厚くする。
フレームを大きくする。
ベースプレートを広くする。
ブラケットを必要以上に頑丈にする。
こうした設計は、安心感があります。
しかし、部品を大きくすると、材料費だけでなく、加工費や組立費にも影響します。
たとえば、
- 材料が多く必要になる
- 重くなる
- 切断や穴あけに時間がかかる
- 溶接量が増える
- 持ち運びや組立が大変になる
- 可動部では駆動源が大きくなる
- 装置全体が大型化する
といった影響があります。
特に可動部では、部品が重くなることで、シリンダ、モーター、ガイド、ブレーキなども大きくなる場合があります。
つまり、ひとつの部品を大きくしただけのつもりでも、周辺部品や装置全体のコストに影響することがあります。
大切なのは、必要な強度を満たしながら、過剰に大きくしすぎないことです。
必要以上に厳しい公差は高くなる
公差もコストに大きく影響します。
初心者のうちは、
「精度は良い方がいい」
「念のため厳しくしておこう」
「ここもズレると困りそうだから厳しくしておこう」
と考えてしまうことがあります。
しかし、必要以上に厳しい公差は、加工費や検査費を上げる原因になります。
公差を厳しくすると、加工者はその寸法を守るために、慎重な加工や測定を行う必要があります。
場合によっては、
- 加工工程が増える
- 仕上げ加工が必要になる
- 専用治具が必要になる
- 測定に時間がかかる
- 不良リスクが上がる
- 加工方法を変更する必要がある
といったことが起きます。
もちろん、位置決め、はめあい、摺動部、軸受部など、精度が必要な部分には適切な公差が必要です。
問題なのは、機能に関係しない部分まで厳しくしてしまうことです。
公差を入れるときは、
その寸法は何のために必要なのか
どのくらいズレると問題になるのか
本当にその精度が必要なのか
を考えることが大切です。
複雑すぎる形状は加工費が上がる
CADでは、複雑な形状も簡単に描けます。
しかし、加工では複雑な形状ほど手間がかかりやすくなります。
たとえば、
- 深い溝
- 細い溝
- 多数の段差
- 内側の直角
- 薄いリブ
- 複雑な曲面
- 奥まった穴
- 工具が入りにくい形状
- 表裏両面からの加工が必要な形状
などは、加工費が上がりやすい形状です。
加工には工具が必要です。
工具が入らない場所は、そのままでは加工できません。
また、加工面が多いと段取り替えが増えます。
段取り替えが増えると、加工時間も長くなります。
初心者のうちは、完成形だけを見て形状を作り込みがちです。
しかし実務では、
その形状は本当に必要か
もっと簡単な形で同じ機能を満たせないか
別部品に分けた方が安く作れないか
標準的な工具で加工できるか
を考える必要があります。
シンプルな形状は、加工しやすく、コストも安定しやすくなります。
削り出しに頼りすぎると高くなりやすい
機械加工では、材料を削って部品を作ります。
削り出し部品は精度を出しやすく、見た目もきれいに仕上がります。
しかし、何でも削り出しにすればよいわけではありません。
大きな材料から多くの部分を削り取る形状では、材料費と加工時間が増えます。
たとえば、箱形のブラケットを一体削り出しで作る場合、材料の多くを削り落とすことになります。
このような場合、板金、製缶、溶接構造、分割部品の組み合わせにした方が安くなることがあります。
もちろん、精度や強度、見た目、剛性の理由で削り出しが必要な場合もあります。
大切なのは、
なぜ削り出しにするのか
を明確にすることです。
精度が必要ない部分まで一体削り出しにすると、コストが上がりやすくなります。
部品形状を考えるときは、機械加工、板金、製缶、購入品のどれが適しているかを比較することが大切です。
特殊材料はコストと納期に影響する
材料選定もコストに直結します。
たとえば、鉄で十分な部品をすべてステンレスにすると、材料費や加工費が上がる場合があります。
軽量化が不要な部品にアルミを使うと、材料費が高くなることがあります。
特殊な樹脂や特殊鋼を使うと、材料手配に時間がかかることもあります。
初心者のうちは、
「錆びると困るからステンレス」
「軽い方がよいからアルミ」
「摩耗しそうだから高性能な樹脂」
と考えることがあります。
しかし、その性能が本当に必要かを確認することが大切です。
たとえば、錆び対策であれば、鉄に塗装やメッキで対応できる場合もあります。
軽量化が必要な部分だけアルミにして、他は鉄にする方法もあります。
ワーク接触部だけ樹脂にして、ベース部品は鉄で作ることもできます。
材料は、性能だけでなく、コスト、加工性、入手性、表面処理まで含めて考える必要があります。
表面処理を過剰にすると高くなる
表面処理もコストに影響します。
塗装、メッキ、黒染め、アルマイト、研磨、バフ仕上げなど、表面処理には目的があります。
たとえば、
- 錆を防ぐ
- 見た目を良くする
- 摩耗を抑える
- 汚れを落としやすくする
- 滑りを良くする
- 識別しやすくする
などです。
しかし、必要以上に高い表面処理を指定するとコストが上がります。
たとえば、外観が重要でない内部部品に、見た目重視の仕上げを指定する必要はない場合があります。
また、塗装で十分な部品に高価なメッキを指定すると、費用が上がります。
逆に、表面処理を考えないことで錆びや摩耗が発生し、後から問題になる場合もあります。
大切なのは、
その表面処理は何のために必要か
を明確にすることです。
目的がはっきりしていれば、過剰な処理を避けやすくなります。
部品点数が多いとコストが上がる
部品点数が多い設計も、コストが上がりやすくなります。
部品点数が増えると、材料費や加工費だけでなく、管理や組立の手間も増えます。
たとえば、
- 図面枚数が増える
- 加工手配が増える
- 部品管理が増える
- 組立時間が増える
- ボルトやナットも増える
- 組立ミスのリスクが増える
- 調整箇所が増える
といった影響があります。
もちろん、部品を分けた方が作りやすい場合もあります。
大きな一体部品を分割することで、加工しやすくなったり、交換しやすくなったり、コストが下がることもあります。
問題なのは、理由なく部品点数を増やしてしまうことです。
設計時には、
一体にした方がよい部分
分割した方がよい部分
市販品を使える部分
を考える必要があります。
部品点数は少なければよいというものではありませんが、多すぎるとコストや管理の負担が増えることを意識しておく必要があります。
特注部品ばかり使うと高くなる
機械設計では、専用部品を設計する場面があります。
装置に合わせたブラケット、治具、カバー、フレームなどは、専用設計になることが多いです。
しかし、すべてを特注部品にすると、コストが上がりやすくなります。
たとえば、標準品で対応できるローラ、取手、蝶番、アジャスタ、キャスター、ノブ、クランプレバーなどを、すべて専用設計すると、図面作成、加工、管理が必要になります。
市販の標準部品を使えば、設計工数や製作工数を減らせる場合があります。
もちろん、市販品がそのまま使えない場合や、装置に合わせた専用部品が必要な場合もあります。
大切なのは、
標準品で済むところまで特注にしていないか
を確認することです。
標準品をうまく使うことは、コストを抑えるだけでなく、納期短縮や保守性向上にもつながります。
調整箇所が多すぎると組立費が上がる
調整機構は便利です。
組立誤差を吸収したり、現場で位置を合わせたり、ワークに合わせて調整したりできます。
しかし、調整箇所が多すぎる設計は、組立費が上がりやすくなります。
調整箇所が多いと、
- 組立時に時間がかかる
- 調整手順が複雑になる
- 作業者によって仕上がりが変わる
- 調整後の固定確認が必要になる
- 使用中にズレるリスクが増える
といった問題があります。
調整が必要な部分には調整機構が必要です。
しかし、本来は位置決めで決められる部分まで長穴や調整構造にすると、かえって扱いにくくなることがあります。
設計時には、
調整すべき部分
固定すべき部分
基準で決めるべき部分
を分けて考えることが大切です。
調整機構は、必要な場所にだけ設けることで、組立性とコストのバランスが取りやすくなります。
購入品の選定でもコストは変わる
機械設計では、モーター、シリンダ、センサー、ガイド、ベアリング、減速機など、多くの購入品を使います。
購入品の選定でもコストは大きく変わります。
初心者のうちは、
「大きめを選んでおけば安心」
「高性能なものを選んでおけば間違いない」
「前回と同じ型式でよさそう」
と考えてしまうことがあります。
しかし、必要以上に高性能な購入品を選ぶと、コストが上がります。
たとえば、
- 推力が大きすぎるシリンダ
- トルクが大きすぎるモーター
- 精度が高すぎるリニアガイド
- 過剰な検出性能のセンサー
- 必要以上に高価な減速機
などです。
もちろん、能力不足は問題です。
しかし、過剰仕様もコストアップにつながります。
購入品を選ぶときは、
必要な能力はどのくらいか
使用環境に合っているか
標準的に入手しやすいか
保守時に交換しやすいか
を考えることが大切です。
コストを下げるために必要な視点
コストを下げるというと、単に安い材料を使うことや、部品を小さくすることを考えがちです。
しかし、それだけでは良い設計にはなりません。
強度不足や耐久性不足になれば、後からトラブルになります。
メンテナンスしにくくなれば、使用中の負担が増えます。
調整しにくくなれば、組立工数が増えます。
コストを考えるときは、
必要な機能を満たしながら、無駄を減らす
という視点が大切です。
たとえば、
- 形状をシンプルにする
- 標準材を使う
- 標準部品を使う
- 必要な部分だけ精度を上げる
- 加工工程を減らす
- 組立しやすくする
- 調整箇所を減らす
- 交換部品を共通化する
- 材料や表面処理を使い分ける
といった工夫があります。
コストを下げる設計とは、単に安く作る設計ではありません。
必要な品質を保ちながら、過剰な部分を減らす設計です。
初心者が確認したいポイント
コストが上がりすぎない設計にするためには、次のような内容を確認すると効果的です。
- 部品が必要以上に大きくなっていないか
- 板厚や部材サイズが過剰ではないか
- 公差を厳しくしすぎていないか
- 複雑な形状にする必要があるか
- 削り出しで作る理由はあるか
- 特殊材料を使う必要があるか
- 表面処理は目的に合っているか
- 部品点数が多すぎないか
- 標準品で対応できる部分はないか
- 調整箇所が多すぎないか
- 購入品が過剰仕様になっていないか
- 組立やメンテナンスの手間が増えていないか
コストは、設計の最後に見直すよりも、最初から意識しておく方が効果的です。
まとめ
機械設計では、機能を満たすことだけでなく、コストを意識することも大切です。
コストは材料費だけではありません。
加工費、組立費、調整費、表面処理費、購入品費、検査費、管理工数なども含めて考える必要があります。
コストが上がりやすい設計には、
必要以上に大きい部品
厳しすぎる公差
複雑すぎる形状
削り出しに頼りすぎる構造
特殊材料の多用
過剰な表面処理
多すぎる部品点数
特注部品ばかりの構成
多すぎる調整箇所
過剰仕様の購入品
といった特徴があります。
初心者のうちは、安全側に考えて過剰な設計をしがちです。
しかし実務では、必要な機能と強度を満たしながら、作りやすく、組みやすく、過剰にならない設計が求められます。
良い設計とは、安ければよい設計ではありません。
必要な性能を満たしながら、無駄なコストを増やさない設計
です。
次回は、
「標準部品を使うか専用部品を作るかの判断」
について解説します。
