第3回|加工できない寸法指示になっていないか確認する
機械図面では、寸法がすべて入っていても、それだけで安心とは限りません。
寸法は入っている。
形状もわかる。
でも、実際に加工する立場で見ると、
「この寸法、どこから測ればいいの?」
「この加工順だと寸法が出しにくい」
「工具が入らないかもしれない」
ということがあります。
図面は、形を伝えるだけでなく、作れる状態で情報を伝えることが大切です。
今回は、図面チェックで確認したい
加工できない寸法指示になっていないか
というポイントについて解説します。
加工できない寸法指示とは
加工できない寸法指示とは、図面上では成立しているように見えても、実際の加工では対応しにくい寸法の入れ方です。
例えば、次のような図面です。
・測定しにくい場所に寸法が入っている
・工具が届かない形状になっている
・加工基準がわかりにくい
・加工後に確認できない寸法がある
・公差が必要以上に厳しい
・穴や溝の深さ指示があいまい
図面を描く側は、CAD上で形状を確認できます。
しかし、加工する側は、材料を固定し、工具を使い、測定しながら部品を作ります。
そのため、図面チェックでは、
CAD上で形ができているか
だけでなく、
現場で加工・測定できるか
を見る必要があります。
まず加工基準がわかるか確認する
加工しやすい図面では、どこを基準にして加工するかがわかりやすくなっています。
例えば、プレート部品であれば、
左端面を基準に穴位置を見る
下端面を基準に高さ方向を見る
上面から深さを指示する
といったように、加工の出発点が自然に読み取れます。
反対に、基準があいまいな図面では、加工者が判断に迷います。
特に注意したいのは、次のようなケースです。
・穴位置が複数の端面からバラバラに入っている
・段差寸法の基準面がわかりにくい
・溝の位置寸法が外形と関係していない
・部品をどの向きで加工するか想像しにくい
寸法が入っていても、加工基準が見えないと、加工手順を組みにくくなります。
図面チェックでは、
この寸法の入れ方で、加工者が基準を決められるか
を確認しましょう。
工具が入る形状かを見る
図面上でよく見落としやすいのが、工具の入り方です。
CADでは、角の奥まできれいに形状を作ることができます。
しかし、実際の加工では工具の径や長さに制限があります。
例えば、エンドミルで加工する場合、内側の角には工具径に応じたRが残ります。
完全なピン角にはできません。
また、深い溝や狭い穴では、工具が長くなり、加工が不安定になることもあります。
チェックしたいポイントは次の通りです。
・内側の角がピン角になっていないか
・溝幅が工具径に対して小さすぎないか
・深い穴や深い溝になっていないか
・工具が入る逃げがあるか
・加工時に干渉しそうな壁がないか
特に、切削加工品では、内側コーナーのRは重要です。
設計上ピン角に見えていても、実際には加工できない場合があります。
必要であれば、逃げ形状やR指示を入れることを検討します。
測定できる寸法か確認する
加工できるかどうかと同じくらい大切なのが、測定できるかです。
図面では寸法を指示できても、実物でその寸法を測りにくい場合があります。
例えば、
・奥まった場所の幅寸法
・深い溝の底面位置
・組み合わせないと確認できない寸法
・基準面が小さすぎて測定しにくい寸法
・曲面や斜面から取った寸法
このような寸法は、加工後の検査が難しくなることがあります。
図面チェックでは、
ノギス、マイクロメータ、ハイトゲージなどで確認できるか
を考えるとわかりやすいです。
もちろん、すべての寸法を簡単に測れるようにすることは難しいです。
しかし、重要寸法ほど、測定しやすい形で指示することが望ましいです。
加工後に消える基準に注意する
加工手順によっては、最初に使った基準面が途中でなくなることがあります。
例えば、材料の外形を基準にして穴をあけたあと、その外形を後加工で削ってしまう場合です。
このような図面では、加工途中で基準が変わります。
基準が変わること自体は珍しくありません。
ただし、図面上で基準の考え方が整理されていないと、寸法のズレや加工ミスにつながります。
特に注意したいのは、次のような部品です。
・何工程も加工が必要な部品
・表裏の両面から加工する部品
・溶接後に機械加工する部品
・外形を荒加工してから仕上げる部品
・別部品と組み合わせてから加工する部品
こうした部品では、最終的にどの面や穴を基準にするのかを意識して図面を見る必要があります。
公差が厳しすぎないかを見る
加工できない図面の原因として、必要以上に厳しい公差もあります。
例えば、特に機能上問題がない部分に厳しい寸法公差を入れてしまうと、加工費が上がったり、製作できる加工先が限られたりします。
図面チェックでは、次のように考えます。
・その公差は本当に必要か
・相手部品との関係で必要な精度か
・組立に影響する寸法か
・見た目だけの部分に厳しい公差を入れていないか
・一般公差で問題ない箇所ではないか
公差は、厳しくすれば良いというものではありません。
必要なところはしっかり管理し、不要なところは一般公差に任せる。
この考え方が、加工しやすい図面につながります。
加工方法を想像してチェックする
図面チェックで大切なのは、加工方法を細かく決めることではありません。
設計者がすべての加工工程を指定しすぎる必要はありません。
加工方法は、加工現場の判断に任せた方がよい場合も多くあります。
ただし、最低限、
この形状はどうやって作るのか?
を想像することは大切です。
例えば、
旋盤で加工するのか
フライスで削るのか
レーザーで切るのか
曲げるのか
溶接するのか
後加工が必要なのか
を大まかに考えるだけでも、無理な寸法指示に気づきやすくなります。
特に、機械加工品・板金品・製缶品では、寸法の入れ方や注意点が変わります。
チェックするときの考え方
加工できる寸法指示になっているかを見るときは、次のように考えるとわかりやすいです。
この図面を見た加工者が、迷わず段取りできるか?
ここでいう段取りとは、材料をどう固定し、どの面を基準にし、どの順番で加工するかを考えることです。
図面の中にそのヒントがまったくないと、加工者側で判断することが増えます。
判断が増えるほど、問い合わせや認識違いが起こりやすくなります。
加工性チェックの簡単な手順
図面を確認するときは、次の順番で見るとチェックしやすくなります。
1. 加工基準がわかるか見る
2. 工具が入る形状か確認する
3. 内側コーナーが無理なピン角になっていないか見る
4. 深い穴・深い溝がないか確認する
5. 加工後に測定できる寸法か見る
6. 公差が必要以上に厳しくないか確認する
7. この図面で加工者が段取りを想像できるか考える
この流れで見ると、CAD上では気づきにくい問題を見つけやすくなります。
まとめ
加工できない寸法指示は、寸法の入れ忘れよりも気づきにくいミスです。
図面上では正しく見えても、実際の加工では、
・工具が入らない
・測定しにくい
・基準がわからない
・公差が厳しすぎる
・加工手順が想像しにくい
という問題が起こることがあります。
図面チェックでは、形状や寸法の正しさだけでなく、
現場でどう作るか
を意識することが大切です。
加工者が迷わず作れる図面は、問い合わせや手戻りを減らします。
設計者が加工方法を少し想像するだけでも、図面の伝わりやすさは大きく変わります。
